第51話 借金完済!!

 長かった夏休みが終わり、最近は小鳥遊ダンジョンと六本木ダンジョンの撮影スケジュールも一旦の落ち着きを見せていた。

 あれ?いつの間に夏休みになってたの?

 そんなことを感じるほどに、忙しない激動の日々を過ごしていた私たち――特に私。

 学校が始まるということで、これまでよりも撮影ペースを落としていくことになった。


 探索者となったことで大きく変わったことといえば、何をおいても懐具合だ。

 それもちょっとした小遣いレベルではすまない金額が私の口座には入っている。

 ダンジョンで手に入れたアイテムは、六本木ダンジョンでのアイテムに限っては全て政府に渡すことになっている。そしてそれを売却することで、その半分の金額が私たちの手に渡る。

 それを現在は6人で均等に配分しているのだけど、そもそもの金額が莫大なものであるので、当然1人が受け取っている金額もとんでもないことになっている。

 ぶっちゃけ、動画の広告収入がどうでもよくなるくらいのお金だ。

 そして今日はある目的の為に阿須奈の家に来ていた。



「いや、そんなのは気にしなくて良いのに……」


 私が封筒に入れた現金を渡すと、小鳥遊父は困ったような顔でそう言った。


「いえ、このお金は初期投資としてお預かりしていたものですから」


 動画撮影をするのに必要な機器を揃える為に、小鳥遊家の不要な物を売って作った現金100万円。

 動画の広告収入などで貯まったら返そうと、最初から空と決めていたことだった。


「うーん……。私は別にお金を貸したつもりはないんだけどなあ……。だって鈴ちゃんたちにあげたのって、必要の無いゴミだったんでしょ?それなのに、こんな大金を返されると困っちゃうなあ……」


「お父さんにはゴミだったかもしれませんが、私たちはそれを売って資金に充ててきました。ですので、これはきちんとお返ししないと、私たちが自立した活動をこれからしていけないんです。お願いします!受け取ってください!」


 空がそう言うと、私の隣で頭を下げた。


「お父さん。お願い、受け取って。私たちは公認探索者になったんだし、こういうことはちゃんと筋を通して活動していきたいの」


「阿須奈まで……。はあ、分かりました。これは貸していたものを返してもらったということにして受け取ります」


「ありがとうお父さん!!」

「「ありがとうございます!!」」


「でもどうしようか……。急にこんな大金を貰ってもなあ……」


 お父さん、倉庫にあるポーション1本売ったら、それの何倍にもなりますよ?


「それだったら、そのお金で今度鏡花をどこかに遊びに連れていってあげて。今年の夏休みはどこにも遊びに行けてないから、あの子もつまらなかったと思うの……」


 夏休みの間中、小鳥遊父は休みの日になると阿須奈の特訓に付き合っていたからなあ。

 でも、小鳥遊ダンジョンで撮影する時は毎回ついてきてくれていて、それが私の活力源になっていたのではあるのですがね。


「みんなについていっている時は楽しそうな様子だったけど?」


「それでもあの子にとっては家の中で遊んでるのと同じだから」


 とんでもない遊び場である。

 私たちが魔物と戦っているのを、目を輝かせて見てるんだから。


「前にあの子、ネズニーランドに行きたがってたんで、今度の休みにでも連れていってあげてほしいの」


 千葉にある24時間営業のアミューズメントパークだ。

 コンセプトは「寝ずに遊び続けられる」という大型施設で、休みの日には全国から多くの人が詰めかけている。


「クマッキーのぬいぐるみも欲しがってたらちょうどいいと思うわ」


 目の下にクマのあるネズミをモチーフにしたネズニーランドの人気マスコット。

 私はクマのプー太郎の方が好きだけどね。


「分かったよ。今晩にでも鏡花に聞いてみる。みんなも一緒にどうだい?」


「いえ、私たちはご遠慮します。せっかくなので阿須奈やお母さんも一緒に行ってください」


「そうね。私も止めておきます」


 どうせなら家族団らんの方が良いでしょ。

 私たちの活動のせいで、小鳥遊家の時間を結構奪っちゃってるし。


「ええー。鈴ちゃんたち来ないの?」


「家族の時間の邪魔をしちゃ悪いもん」


「私たちはそんなの気にしないのに……」


 そんなに可愛らしく口をとがらせても駄目。


「こっちが気にするの。私たちとはまたいつでも行けるんだからね」


「分かった……」


 何か子供を諭しているみたいだな。


「何か気を使わせちゃってゴメンね」


「あ、いえいえ、そんなことないですから」


「せっかくのご厚意に甘えさせてもらうとするよ」


 ということで、この週末にあった撮影の予定はキャンセルされ、久しぶりに完全オフとなった。

 夏休みは2日に1回の撮影。空いている日は編集やミーティング。夏休みが終わってからは毎週末の撮影と、ほぼほぼ休みのない日がずっと続いていたから助かった気持ちが大きかった。




「わあー!ネズニーランドだー!本物だー!りんおねえちゃん!見てみて!本物のネズニ―ランドだよー!」


「うんうん。本物だよ鏡花ちゃん。クマッキーに会うの楽しみだね!」


「うん!早く会いたい!!」


 目を輝かせてそんなことを言っている鏡花ちゃんはマジ天使!

 その心を掴んでいるクマッキーは憎いが、そのお陰でこの笑顔が見れるのだから、今回だけは許してやろうじゃないか。


「ごめんね鈴ちゃん。せっかく気を使ってくれてたのに……」


 小鳥遊父が申し訳なさそうに私に謝ってきた。


「いえ、鏡花ちゃんの頼みですから。今回は鏡花ちゃんを楽しませるのが目的だったんで、私がお邪魔してもよろしいのであれば、それで構いませんよ」


『ええー!!みんなは一緒じゃないのー?』

『じゃあ!りんおねえちゃんだけでも一緒がいいー!!』


 どうやらそんなことがあったらしく、あの日の夜に阿須奈から一緒にネズニ―ランドに来て欲しいと連絡があった。

 せっかくの完全休みだと思って喜んでいたところだったので少し迷ったんだけど、こうして鏡花ちゃんの嬉しそうな顔を見ていると、迷っていた私の顔面を張り倒して目を覚まさせてやりたい気分だ。


「りんおねえちゃん!早く入ろうよー!」


 入場口に向かって走り出していた鏡花ちゃんが振り向いて私を呼んでいる。


「何だか本当のお姉ちゃんの私より鈴ちゃんに懐いてる気がする……」


「会って数か月なのに、よっぽど波長が合ったんだろうな……」


「いっそ鈴ちゃんもうちの娘にならないかしら……」


 それを言うなら、鏡花ちゃんを私の妹にください!!

 絶対に幸せにしてみせますから!!


「鏡花は非売品だから駄目!」


 ちっ!



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