第49話 カレンダーズ活動計画

 そして話は『六本木ダンジョンパート10』の撮影後に戻る。

 今回阿須奈抜きでの撮影を行ったのには意味がある。別に阿須奈は風邪で休んでいたわけではない。そもそもあのポーションを物置に転がしているような家で病気なんてあり得ない。

 第一の理由は、阿須奈のいない動画を撮ることで、私たちもそれなりに戦えることを視聴者に印象付けて、手加減を間違った時の阿須奈の力をぼやけさせる為。

 第二に、今後ライブ配信を計画しているので、生放送でボロを出さないように私たちだけのフォーメーションを確認する為。編集の効かない生放送では、それなりに派手な撮れ高を自分たちで作らないといけないから。単独でやーやーやるよりは、何人かでコンビネーションを取った方が見栄えがするだろうとのこと。

 これは栗花落つゆりさんの提案で、賛成多数の支持を受けて議決された。

 多勢に無勢……数の暴力の前に私一人の力の何と無力なことか……。


 そして第三の理由。

 これは公認を受けた後に栗花落さんからカレンダーズの今後についての提案を受けて、私たちだけで決めたこと。


 国としては、カレンダーズにどれだけの力があるのかを測らせて欲しいとのこと。

 誰がスリーサイズなんて教えるか!!と反対したけど、そんなものを測るつもりはないとのこと。

 そんなものとは何だ!!


 現在日本のトップランカーは「ソメイヨシノ」のリーダー桜田門さん。世界ランキングは約2000位。「ソメイヨシノ」の踏破階層は秩父ダンジョンの地下21階。世界のトップが地下33階ということなので、これだけ聞いてもかなりの差がある。

 つまり「カレンダーズ」が、この「ソメイヨシノ」を超えるだけのポテンシャルがあるのかどうかを知りたいのだそうだ。

 ちなみに、小鳥遊父の事はダンジョン省の中から一切漏れることは無いらしい。

 栗花落さん曰く、「誰でも命は惜しいですから」とのこと。

 一応、私たちとの約束は守ってくれるようで一安心している。


「とりあえずの指標として、年内にカレンダーズが踏破する予定を立てておきたいと思います」


 契約の翌日、栗花落さんは一人で学園の部室?研究会室に来ていた。

 そこに集まっている研究会員と東海林先生。


「それはどこのダンジョン――つまり、私たちが普段撮影を行っているダンジョンでも良いのかしら?」


 そして制服を着てちゃっかりと紛れ込んでいるみらん。


「いえ、出来れば公認記録として残すことが出来る認定のダンジョンが良いのですが」


 小鳥遊ダンジョンは非公認の為、いくら階層を踏破したとしても公式発表は出来ない。その上、それを動画に撮って公表することになると、国際的にもいろいろと面倒が起きるとのこと。

 まあね。国が公認している探索者が、非公認のダンジョンで日本記録更新とかって意味分かんないよね。


「ですので、普段使っていらっしゃるダンジョンでの撮影はこれまで通り行っていくことは、最初の契約で承知しておりますので、それ以外のダンジョンでも撮影をしていただきたい。そして、進める階層は公認のダンジョンを優先していただけないでしょうか?」


「つまり、公式ダンジョンを先に進めて、今までのダンジョンではそれより上の階層でやって欲しいと、そういうことね?」


「はい。国として公認する以上、一定の成果を上げていただかなければなりませんので……」


「別に私はそれで構わないけど?みんなは?」


「栗花落さんは言いにくそうに言ってるけど、それくらいやるのは当然だと思う。私たちだってタダで公認受けるつもりは無いんだし、これまでのダンジョンだとマズいって言うなら、そこは妥協しないといけないんじゃない?」


 今日の空は別人格の真面目バージョンだ。

 脳みその筋肉が程よくほぐれている時に、その皺の隙間から顔を出してくる。


「だね。他のみんなは何か意見はある?――会長は?」


「え?私は……」


 みらんが会長と言った瞬間に、他のみんなが宇賀神うがじん先輩を一瞬見てから私を見たのを見逃していないぞ。


「うん。私も空と同じだよ。タダでいろいろサポートして貰うの悪いし……」


 私は机の上に置かれた機材に目をやる。

 それは栗花落さんが段ボールを抱えて持ってきた物たち。


 最新の撮影用カメラに、ライブ配信をすることの出来るカメラなど機材一式。現在使っているゴ―プロの予備なども複数入っていた。

 明日には新しいパソコンも3台届くとの事。

 これは私たちが頼んだものではないんだけど、どうも向田が緊急で手配してくれたらしい。

 ああ見えて結構やるじゃん。


「阿須奈もそれで良いかな?」


 阿須奈にとってみれば、初めて家以外のダンジョンに入ることになる。その事に抵抗は無いんだろうか?


「私はみんなと一緒なら何でも良いよ」


 そう言って笑っている阿須奈。

 ああ……何と尊い微笑みなんだろうか……。


「――痛っ!!――え?何?え?え?」


 急に脇腹に痛みが走った。

 痛みのあった方を向くと、隣に座っていたゆめちゃんがこちらを上目遣いで睨んでいた。


「鈴先輩。大事な話の途中なのに鼻の先が伸びてますよ」


 私は象か?それかピノキオか?


「鼻の下ね。てか、べ、別に私はそんなとこ伸ばしてなんて――」


「栗花落さん。ではそういうことですので」


 おい!何も無かったように話を進めるな!

 会長のありがたいお話はまだ途中だろうが!


「ありがとうございます。では、公認として活動していただくのは「六本木ダンジョン」でいかがでしょうか?あそこでしたら、秩父ダンジョンと難易度認定が同じ「A」ですので、「ソメイヨシノ」との比較もやりやすいかと思います」


「難易度認定?」


「え?」


 私の呟きに栗花落さんがおかしなものを見るような目を向ける。


「鈴原……あなたもしかして……」


「鈴……」


 何だ?!どうしてみんなしてそんな目で私を見るんだ?!

 あ、阿須奈だけは私と同じような顔をしているな。


「鈴原さん。国が認定しているダンジョンには難易度が設定されているんですよ。公認の探索者が実際に探索を進めて、その内容によって決まっています。「秩父ダンジョン」の難易度は「A」。これは国内では7カ所しかない「A」ランクに指定されているダンジョンの一つです。そして栗花落さんがおっしゃった「六本木ダンジョン」も同じ「A」ランク。ちなみに踏破階層は18階。それも一昨年に「ソメイヨシノ」が踏破した記録です」


 東海林先生がつらつらと説明してくれた。

 さすがは顧問にして元探索者。


「……東海林先生はダンジョンについてお詳しいんですね」


 お飾りだと思っていたのか、栗花落さんは目を見開いて東海林先生を見ている。

 まあ、普通の学校の先生がそんな進行形でダンジョン情報に詳しいとは思わないよね。


「ええと……ああ、その「六本木ダンジョン」でどれだけの成果を出すことが出来るのか、それをもってカレンダーズの将来的な力を見極めたいと、上の者はそう考えているようです」


 いきなり30階とかまで行きそうな子がいるけど大丈夫そ?



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