第39話 転校生はスタイルを気にする?

「東海林先生だったら良いんじゃない?あの人が探索者だったのは初耳だけど、そういう理解のある人が顧問なのは良い事だわ」


 東海林先生が正式に顧問を引き受けてくれた後、みらんにその報告がてら私たちは今後のことを話し合うの為に集まっていた。

 当然みらんの家に。

 ケーキかもーん。


「みらんちゃんが学園を辞める時に、東海林先生に相談してたって言ってたね」


「あ、そうそう。お前、仁王様と仲良かったのか?」


 本人がいないところだと空はいつもの調子に戻って仁王様なんて言っているけど、その癖を直しておかないと、これからはどこで先生に聞かれてるか分から……まあ、本人の為にもそれは黙っておこう。人間て一度痛い目をみないと覚えられないことだってあるだろうし…。


「仲が良かったっているよりは、私はあの先生を信頼していたから。1年の時の担任だったし」


「そうなんだ?」


「ええ。あの人は見た目で誤解されてるけど、すごく生徒に親身になってくれる先生なのよ。見た目は怖いけど」


 見た目をそんなに強調するあたり、こいつも最初は怖がってたんだな。


「まあ、言われてみれば、今回だって私たちの活動に理解を示してくれてるし、そもそも最初から顧問を引き受けてくれるつもりだったみたいだしね」


「……ちょっと気になることもあるけど」


「ん?鈴、何か逝ったか?」


「ううん。別に何も言ってないし、そもそも逝ってない。健康そのものだよ」


「……よく分かったな」


 分からいでかっ!


「これで新入部員?新入会員?を受け入れる態勢は整ったわけだけど、メンバーが揃ったあとの方針よね。東海林先生が言うように、政府関係者が動き出していても不思議じゃないと思うの。ネットで調べてみたけど、阿須奈のことや私たちが使っている武器についてかなり話題になっているみたいなのよ」


 私の事が話題に上がっていないなら問題ない。

 むしろ阿須奈や武器が私にとってのスケープゴートになっているなら大歓迎だ。

 ……政府関係者のところはヤバそうだけど。


「私、有名人?!」


「まあね。配信者としては喜ばしい事なんだけど、ちょっと嫌な方向で目立ってるわね」


 そんなみらんの憂いはどこ吹く風とばかりに嬉しそうな阿須奈。

 そんなに有名になりたいなら、ランキングの事をバラしたら簡単なことなんだけどね。

 本人はまだ自分がどれだけ凄いのかの自覚が足りてないんだよね……。


「まだ3階分までしか動画上げてないのにな。これだと前に決めたペースで進めるのはヤバそうな気がする」


「そうね。5階以降になると、動画やライブ配信をメインでやるような探索者が行くようなところじゃないし、更に阿須奈の強さが浮き彫りになってきちゃうから」


 みらんの言う通り、ダンジョンの動画を上げたりライブ配信をやってる探索者の人たちは、よくて5、6階層までというのがほとんどだ。それでも十分に凄い事らしいのだけど、それよりも下の階層になると、探索をメインでやっているパーティーが、特に配信映えを気にしない映像を垂れ流しているだけというね。

 まあ、その人たちも命がけでやってるんだから、一々コメント読んで返事してとか出来ないよね。


「さすがに5階層の魔物を楽勝で倒す女子高生は目立つわなぁ…」


「その頃になると、それに付いて行っている私たちだって普通じゃないって気付かれるわよ」


「私たちも?」


 なんで?阿須奈と武器が目立ってるって言ったじゃん。


「鈴原……。あんた、こないだ5階で大暴れしたところでしょ?もう忘れたのかしら?今後あんたが一番目立つ可能性があるのよ」


「――あ」


 そんなことがあったような無かったような……」


「あったの!」


「はい…ありました……」


「あの時の鈴ちゃん、かっこよかったよねえ!」


「私はちょっと怖かったけどね」


「私は直接見てないけども、結果を聞いただけでもはっきりと言えるわ。あんたがこの中で阿須奈の次に強くなってるってね」


「は?いやいやいやいや――」


 んなわけない。

 私は鏡花ちゃんのお肉の為に頑張っただけで……。


「いやじゃないわよ。もしも探索者カードにレベルが表示されるんだったら、間違いなくあんたのレベルは中堅の探索者レベルになってるはずだわ」


「私が……中堅者レベル……」


「まったく、私が目立とうと頑張ってたのは何だったのかしら…」


 みらんがそんなボヤキを呟いていたのは、私の耳に入ってくることはなかった。

 他に考えることが多すぎて混乱していたから。


「さすが会長様だな」


 空の私をからかう声はしっかりと聞こえていたので、今度どうやって仕返ししてやろうかとは考えていたけども。



「とにかく、これからの私たちのとれる選択肢は2つ。1つはペースを落として誤魔化し続ける」


「それってどれくらいだ?」


「まあ、1年で1階層くらいが普通じゃないかしら?そもそもここまでのペースが異常すぎるんだし」


 これから1年間も3階で戦ってる動画を撮るってこと?

 つまんなくない?

 ……べ、別にやる気を出してるわけじゃないんだからね!


「それは観ている方もつまんないだろ?」


「そりゃあそうよ。他の人はトークやいろんな企画とかで面白くしてやってるからファンがついてるけど、今の私たちがそれを真似したところで、今カレンダーズに付いているファンが求めているものとはかけ離れているでしょうね」


「みらんちゃん。私たちのファンの人が求めてるものって?」


「ハチャメチャに強くて美人の阿須奈が魔物をぶっ倒しているところでしょうね。あとは女子高生ばかりの探索者への興味かしら?」


「お前のアニメはどうなんだ?」


「Vtuberをアニメって言うな!!……私へのファンはまだ少ないでしょうね。まだ1回しか動画には登場してないし、今はどちらかというと戸惑っている人の方が多いでしょうね」


「あれ?意外と冷静に分析してるんだな?お前のことだから、今増えてるファンは全員私目当てなのよー!!とか言うのかと思ってたわ」


 うん。私もそう思った。


「ぐっ!そ、そりゃあそう言いたいわよ!」


 やっぱり言いたいのか。


「でも、今はそんな見栄を張ってもしょうがないでしょう?そんなのは捨てて冷静に考えないと、これから先どうなるか分かったもんじゃないんだから」


 ちょっと意外だった。

 みらんはもっと私が私がって目立ちたがるタイプだと思っていたから。

 実際に動画でも無駄に派手な動きで目立とうとしていたし、その為に努力もしていたんだから。

 入ったばかりなのに、この中で一番ちゃんとした考え方が出来る人なのかもしれない。


「みらんが会長をやった方が――」


「私は学園を辞めてるのよ?」


 そうだったあぁぁぁ!!

 私の馬鹿ぁぁぁ!!


「まあ、だから、ペースを落とすのは、これまでに付いていたファンを失うことになりかねないわね。それに他の配信者へのアドバンテージの半分を失うことになる。だからこれは私もお勧めはしないわ」


「じゃあもう1つの選択肢はなんだ?」


「私たちからばらすのよ」


「却下―!!却下!却下!却下!会長権限で却下―!!」


「落ち着きなさい鈴原。何も別に名前なり何なり全部をばらすなんて言ってないでしょ?」


 じゃあ何をばらすの?

 学校名?血液型?マイナンバー?

 ま、まさか?!スリーサイズとか?!


「それはダイエットしてからで!!」


「わ、私も!!」


 いや!阿須奈はそのままで十分綺麗だから!!


「……2人が何を考えているのか知らないけど、私たちのことを伝える相手は国よ。日本の政府に私たちの事をばらすのよ」



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