第24話 転校生は放課後に感動した?

『ぴろり~ん♪(チャンネルロゴが入る)』(SE)


『てれれれれ~ん♪カレンダーズチャンネル~♪』(BGM+3人の声)


「はーい、皆さんこんにちはー!カレンダーズの~ソラです!」(字幕)


「アスナです!」(字幕)


「リン…です」(字幕)


「前回はダンジョン1階での私たちを見てもらいましたけど、今日は更に下へ降りていきたいと思います!」(字幕)


「楽しみだねえー!」(字幕)


「い…いや…」(ぼそっ)


「「では!はりきって行ってきまーす!!」」(字幕)


「……ます」(ぼそっ)


――1階部分カット


『でででぇ~ん♪でんでんでんでん♪』(BGM)


「さあ皆さん、ついに2階へ降りる階段へと辿り着くことが出来ました!ご覧ください!!」(字幕)


『ババァ~ン♪』(SE)


――音に合わせて階段をズーム


「みんな!ここから先は何が起こるか分からない!気を引き締めていこう!」(字幕)


「うん!」(字幕)

「うん…」(ぼそっ)


『そして私たちはダンジョンの深淵へと続く階段へと足を踏み入れたのだった』(ナレーション+字幕)


『ダダダダァーン!!』(SE)


――暗転




「まあ最初の掴みのところだけですけど、こんな感じでどうかしら?」


 それは段々畑さんがPCをいじり始めて、ほんの30分ほどの時間だった。


「すげぇ……な」


「凄い……」


 空も阿須奈もそんな感想しか出てこない。

 私はというと、そんな言葉すら出てこずに絶句していた。


「まあ、元々の素材が少なすぎるから、ズームとかの編集は出来ますけど、カット割りを変えるとかは出来ませんのよ。ヘッドカメラの映像も、鈴原のは下ばっかり映してますし、阿比留のはメインカメラを気にしてキョロキョロしすぎですし、小鳥遊の魔物と戦ってるシーンなんて、全部ぶれてて何やってるのかも分かりませんし。せっかくの見せ場のシーンが台無しですわ。ですから、1階部分は全カットしましたわ。それと――」


 私は怖いから下向いて、持っているカメラに写っている画面しか見てない。

 空は解説しながらだから、カメラ目線をしょっちゅうしている。

 阿須奈は動きがあまりに速すぎて、魔物との距離が近いヘッドマウントカメラでは映しきれない。

 そもそもメインカメラ1台なので、いろいろな角度から撮ることなんて不可能だし、人手も足りない。

 そんな私たちの欠点を次々に、ぶつぶつと、たらたらと言い挙げていきやがる。


――コンコン


 部屋のドアをノックする音がする。


「はーい」


 伊予柑がPC画面を見たままで返事をする。


「お嬢様。ケーキが届きましたのでお持ちいたしました」


 メイドの恰好をした女性がカートのようなものを押して部屋に入ってくる。

 その上には生クリームで見事なデコレーションがされたホールケーキが乗っている。


「ありがとう。あとで食べるから切り分けてテーブルに置いておいて」


「かしこまりました」


 メイドさんはそう返事をすると、手際よく切り分けて小皿へと乗せていく。


「――ら、鈴原、私の話を聞いているのかしら?」


「もちろん!」


 何て美味しそうなケーキ……。


「それなら、ケーキではなくて私の方を見てもらいたいのだけど?」


「それは断る!!」


「……先におやつの方が聞いてくれそうね」


 当たり前だろう!!



 さて、今更だけどここは畑野邸。

 まさに邸!!イッツ豪邸!!レッツ海底!!俺の生きざま常に有り体!!


 私と阿須奈の家の敷地を足した土地が、この家の庭くらいの広さにしかならないようなでっかいでっかい家。

 多分、みかん栽培で儲けたお金で建てたものだと思われる。


「うちは貿易関係の会社をやってるのよ」


 違ったようだ。


 今日の放課後は阿須奈の家で、昨日撮った動画の編集をする予定にしていた。

 空は今日も部活を休むとのことで3人揃って下校したのだが……。


「遅い!!遅すぎる!!待ってる間に私が何度職質を受けたと思っているのよ!!」


 知らんがな、デコポンさん。


 校門を出たところで不審なみかんに絡まれてしまった。


「お前、まだいたのかよ……」


「いるに決まってるでしょ!!あんたたちに用があるって言ったでしょう!!」


「そうだったか?」


「そうでした?」


「記憶にございません」


「……そんなこと言って良いのかしら?本当に用があるのはあなたちじゃないの?」


「いや、別に無いな。じゃ」


 空はそう言うと土佐文旦の横を通り過ぎる。

 当然、私と阿須奈も一緒だ。


「ちょーっと!ちょっと待ったー!!」


 しかし回り込まれてしまった。


「あんたたち!私の動画を観ても何にも思わないわけ!?」


 伊予柑の攻撃!

 しかし私たちにダメージを与えることは出来なかった。


 空の攻撃。

「再生数が少なかったな」


 阿須奈の攻撃。

「登録者数も少なかったですね」


 私の攻撃。

「チャンネル名が恥ずかしかったね」


「ぐはあぁぁ!!」


 会心の一撃!!

 伊予柑を倒した。


「そんな…そんなとこはどうでも良いんですわ!!」


 ですわ?

 生き返る時に何か混ざったのか?


「動画の編集はどうだったかって聞いてるんですの!!」


 ですの?


「編集は……凄かったな。クソつまんなかったけど」


「編集は凄かったです……面白くはなかったですけど」


「編集は凄かったね……チャンネル名はハズいけど」


「ぐはあぁぁ!!」


「あ、死んだ」


 もう迷い出てくるんじゃないぞ。



「良いから!私が編集のやり方を教えて差し上げるって言ってるんですの!!」


 いや、そんなことはそれまで一言も言ってなかったぞ?

 それに私がそんな動画に有益な情報を受けるとでも?

 ――否!!

 私はこれ以上注目を浴びるようなことなんて、誰がなんと言おうと反――


「こんなとこで言い合っていても仕方ないし、私の家でケーキでも食べながら話の続きをするのでどうかしら?」


「話くらいは聞いてあげても良いんじゃない?」


 ね?ね?


「鈴……。えっと、阿須奈もそれで良い?」


「私は2人が良いなら良いよ!」


 ケーキ♪ケーキ♪



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