第22話 転校生はバズる?

「では、次回の動画も観てくださいねー!!バイバーイ!!」


 笑顔で手を振る阿須那と空。

 私はそれをカメラの画面で見ている。


「はいオッケーです」


 私はそう言うとビデオカメラの停止ボタンを押す。

 それと同時に阿須奈と空が最後の挨拶用に手を振っていたのを止めた。


 ここは小鳥遊家の地下3階。

 前に私が芋虫の大群に襲われたところだ…。


「阿須奈お疲れー!」


「空ちゃんと鈴ちゃんもお疲れ様!」


 私が疲れているのは精神的にだけどね。

 今回もオープニングに参加させられたし、途中でおかしなテンションのナレーション入れさせられたし。


「2階の撮影の予定だったけど、結局3階まで来ちゃったね」


 阿須奈はこの撮影の間だけでも、10数匹の魔物を倒しているんだけど、息切れどころか汗一つかいていない。


「2階だけだと前回とあんまり絵替わりが無かったから仕方ないよ」


 逆に何も倒していないはずの空は、魔物が出てくる度に大げさなリアクションをし過ぎたせいか、首筋に汗が流れていた。


「ねえ……本当にこれ動画にして大丈夫かな?」


 私には映ることを嫌がる以外にも、心配な事があった。


「ん?どういうこと?もう少し出番が欲しいなら、いくらでも撮り直すけど?」


「なんでやねん!違う違う!」


 慌てすぎて、人生初のなんでやねんです。


「今日は3階のグリーンキャタピラーだっけ?あれを何匹も倒したじゃない?」


「まあ、全部阿須奈がね」


 そう空が言うと、「えへん」といった感じでナイスな胸を張る阿須奈。

 つなぎだからイマイチ……。


「他の動画観てみたんだけど、ほとんどの人がこの辺になると必死で戦ってた感じなんだよね」


「まあ、演出的な事じゃない?だって、簡単に倒してたら観ている方もつまんないでしょ?」


「でもそれだったら、もっと先の階層の動画を撮っている人が多くいてもおかしくないんじゃないかな?って思うんだけど…。それに空はリアクション取ってたけど、阿須奈はあまりに簡単に倒し過ぎてるんじゃないかな……」


「うーん…。どうだろ?確かにあんまり深い階層でやってる人はあんまり見ないけど……」


「私たち、阿須奈の強さに見慣れてしまってて、世間の常識がよく分かってないんじゃない?トイレの前で撮影してるけど、ここってダンジョンの地下3階なんだよね。普通だったら結構ヤバいとこなんじゃないのかな?」


「そうなの?」


 きょとんとした顔の阿須奈。

 真面目な話をしてるんだから、そんなに可愛らしい顔をしないでもらいたい。


「何も分かってない昔だったらそうかもしれないけど、今はそうでもないんじゃない?そうじゃなきゃ命がけで撮影したり配信したりまではしないと思うけど…」


 そう言ったところで誰かのお腹のぐぅーっという音が聞こえた。


「……とりあえず戻って晩御飯にしようか?」


 阿須奈がそう提案してくる。


「そう…だね」


 私は顔を真っ赤にしながらそう答えるのが精一杯だった。

 ちくしょうめ!!




「ごちそうさまでした。それとお邪魔しました」


「いえいえ、また次の撮影の時を楽しみにしてるわね」


「鈴ちゃん!空ちゃん!また明日ね!」


 小鳥遊母と阿須奈に見送られるようにして玄関を出ようとする私と空。

 今週だけで3回もごちそうになってしまった。

 あんまり続くと、うちの母親に怒られそうなんで気を付けなきゃな。


 と、そんな事を思っていた時――


「え!?」


 空がとんでもない音量の声を上げた。

 驚いて食べたものが戻ってきたらどうする気だ?


「どうしたの空ちゃん?」


 最後まで見送ってくれていた阿須奈とお母さんもその声に驚いていた。


 最悪、ご近所さんも事件だと思って飛び出してくるんじゃないかとすら思うんだけど。


「これ……」


 こんどは蚊の鳴くような声でスマホの画面を私に見せてくる。

 さっきので声帯死んだんかな?

 それだったら静かになって嬉しいんだけどな。


「――はあぁぁぁ!?」


 私の声にまた小鳥遊母娘が驚く。

 いや、一番驚いているのは私だって!!

 これは目の錯覚!?バグ!?夢!?

 夢なら悪夢だ!!起きろ私!!今すぐに!!


 視聴数 15113

 チャンネル登録者 8777


 嘘だー!!

 誰か嘘だと言ってくれー!!


「やったよ!!何か分からないけど一日でバズってる!!」


 1万5千人もの人があれを観たとか悪夢だー!!


「鈴ちゃん!空ちゃん!やったね!!」


「うわぁ…すげえ。これは感動するわ・・・。何?鈴。あんたも感動で泣いてるじゃん」


 あんたの目にそう映ってるんだったら、私の情緒がおかしくなってるからだよ…。




「鈴ちゃんおはよう!!」


「おは…よう」


 今朝の阿須奈のテンションはいつになく高い。

 理由は再生数が増えていたことなのは間違いない。


 夕べの私は帰ってすぐにベッドに潜り込んで寝た。

 お風呂?一日入らないくらいで人は死なない。

 それよりも、少しでも姿を隠したい気持ちで、文字通り布団を頭から被って丸まって寝ていた。


 その間も再生数が増えて私の姿が大衆に曝されていると思うと、自分の体臭どころではないのだよ。


 テンション高くしゃべり続けている阿須奈。

 私はそれに適当な相槌を入れながら思い足取りで学校に向かった。


 どうか、学校のみんなは観ていませんようにと祈りながら。


 しかし…悪い想像というのは、得てして実現してしまうのだ。



 ちょうど私たちが校門のところに着いた時に――


「ねえ、ちょっと」


 あからさまな不審者に声をかけられてしまった。


「誰が不審者よ!!」


 おっと、また心の声が漏れていたようだ。


 でも、不審者じゃなきゃ何なんだ?


 穴の開きまくったジーンズに、虎と龍の刺繡の入ったジャンバーを着た金髪ツインテールの女の子。

 ジャンバーの下にはおかしなデザインのパンダの顔が入ったシャツを着ている。

 それどこで買って合わせようと思ったのよ?


「えっと…私たちはそういう個性的なファッションには興味が無くてですね…」


「別に服の押し売りに来たわけじゃないわよ!あんたたちでしょこれ!!」


 そう言うと彼女はスマホの画面を見せてくる。

 見せるな!見たくない!もう何を言いたいのかは分かったから今すぐに帰ってください!!

 そうじゃないと、スマホを叩き割った上に、空のゴリラパンチで記憶を消させてもらうぞ!!


「ゴリラで悪かったか?うほっ?」


「あ、空さんおはようございます」


「うほほ」


 最悪のタイミングで空が合流してしまった…。


「漫才してないで早く見なさいよ!!これ、あんたたちでしょ!!」


「ちょっと声が大きいから…」


 ただでさえ他の生徒の注目を集めているファンキーガールなんだから、これ以上目立つことをしないでほしい。

 てか、どうやってこの女の口を封じるべきか…。


「鈴ちゃん…怖い…」


 怖くないよぉ。これが普通の反応だようぉ。


「二人とも、ちょっとこっち来て。あんたもね」


 スマホを見ていた空がそう言って、私たちを校門から離れたところへ連れて行く。


 さて、どうやって始末して――


「そんなことしないから早くついてくる!」


 ええー。



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