第63話 こんな偶然
「確かに、御船聖典は失踪届けが出てるね。もうすぐ七年経つから、死亡したといっても法的にも問題ない」
「マジすっか……うわぁ、盲点だったっス。じゃぁ、あれは誰なんすか!?」
「いやいや、そう言われても……僕だってびっくりしてるんだよ、鳥町くん、落ちついて」
今までの捜査はなんだったのか、てっきりこれまでの事件の犯人たちの口から、セーテンという名前が出てきたため、鳥町はあの御船聖典が八咫烏のリーダーなのだと思っていた。
それがここにきて覆されたのだから、冷静ではいられない。
「あの聖典が相手だから、めっちゃ警戒してたんスよ!? 覚りの力は厄介だし……」
「まぁ、まだ完全に死んだとは限らないから……ああ、ダメだって、食べ物をそんな粗末に扱っちゃぁ」
駄菓子コーナーを蹴り倒し、暇つぶしに積み上げていたチロルチョコのピラミッドを鳥町は自ら乱雑に崩した。
「あぁ、せっかくここまで積み上げたのに勿体無い」
「ムキィィィィ!!」
「ムキィィィィって……そんな漫画みたいなこと言わないの。落ち着きなさい鳥町くん。一応、これではっきりしたことが一つあるじゃない」
「なんスか!?」
「真日本人教は、八咫烏と敵対しているということだよ。この際、真日本人教に捜査の協力を要請してみるのはどうだろう?」
「捜査協力……? 本気っスか?」
「昨日の敵は、明日の友というしね。まぁ、過去のことがあるから、君たちにとっては難しいことかもしれないけど……」
「過去のこと……? ってか、そういえば、兜森さんってどうしたんすか? なんで休んでるんスか? 舞さんの病院にもお母さん一人できたし……ズル休みっすか?」
「まさか……」
千は鳥町に、昨日起きたことをどこまで説明すべきか悩んだが、いずれ知ることになるだろうからと、すべて話した。
舞が、あの事件の被害者の一人であったこと。
その事件の容疑者側の弁護士が、あの喜奥弁護士であったこと。
その喜奥弁護士が、兜森の実母の可能性があること。
「……は? なんすかそれ? え、母親? あのおばさんが?」
「そこが一番驚いたかい?」
「だって、舞さんがあの事件の被害者なのは、昨日聞きましたし」
「……昨日? 誰から?」
「警視総監と……あと、舞さん本人の口からも」
「舞さん本人!? 忘れていたんじゃなかったのかい!?」
「思い出したらしいっス。ほら、警視総監ってめっちゃなっち——……あ、えーと、娘さんと顔がそっくりなんすよ。さすが親子って感じで。昨日、警視総監と偶然会って、その時記憶がフラッシュバックしたみたいで」
「なるほど……そういうことか」
舞は昨夜、事件当時のことをすべて思い出した。
そこへ美香子が来て、鳥町と小間瀬警視総監は警視庁へ戻った。
「でもあの時の弁護士が、あのおばさんだったのは知らないっス。もしかしたら、あの後舞さんのお母さんが舞さんに話したかもしれないっスけど……あーしは初耳っス。それにしても、なんの因果っスかこれ……」
知らなかったこととはいえ、こんな偶然があるのかと鳥町は鳥肌がたった。
◆
同時刻、真日本人教本部。
御船百合子は、自室で何度も繰り返し高橋聖典の出演したワイドショーの映像を確認していた。
「それじゃぁ、やはりこの子は
「はい。高橋
部下に高橋聖典について調べさせたところ、学年は一緒だが彼は早生まれの一月。
御船聖典は十二月生まれだ。
血液型は同じA型。
震災で小学生六年生以前の写真等は流されてしまい見つかっていないが、中学から高校まで通っていた高校の卒業写真でも高橋聖典としてしっかり残っている。
「こんなに似ているのに、別人ということ……?」
「そうなりますね」
同じ頃の御船聖典の写真と見比べても、二人は本当によく似ている。
まるで双子の兄弟のように、そっくりな顔をしていた。
それに読み方は違うが同じ名前。
こんな偶然があるものだろうかと、百合子は眉間にしわを寄せる。
「両親については……?」
「母親の高橋
どちらの名前も、聞き覚えがない。
資料には高橋聖典を引き取った母方の親族についても記載があったが、こちらも同じだ。
全くの別人で間違いない。
「どうにかして、DNAの検査はできないかしら?」
「DNAですか? 別人なのに、どうしてそこまで……?」
「こんなに似ているのよ。別人だとしても、もしかしたら兄弟かもしれない。もしそうなら……————
御船聖典は、高校を卒業後に御船百合子から異能を付与されるはずだった。
彼が行方不明になったのは、その前日。
「どんな異能に目覚めるかわからないから、最後に自分の足で山に登りたい」と言って、家を出て、それっきり帰ってこなかった。
「もし、この子が私の孫だったら、持っているはずよ。私たちがずっと追い求めていた、あの異能を————」
【Case7 同時多発的強盗事件 了】
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