第33話 異能者による犯罪


 通常、行方不明となった女児の周辺を探れば監視カメラのどれか一台にでも映っている可能性が高い。

 田舎で起きた事件ではなく、いたるところに監視カメラの設置されている都会で起きた事件だ。

 特に事件が起きた青春小学校の学区内は、個人宅でも防犯のためにカメラを設置している家が多い。

 コンビニやスーパー、近くの交番や郵便局、車にドライブレコーダーが搭載されている数も増えて来ている。


 そこまで手を尽くしても、菜々も四年生の女児の姿もどこにも捉えられていないのはおかしい。

 さらに、もう一つ、そう噂された要因は、この青春小学校の近所に新日本人教の本部がある為だった。

 本部がこの地にできたのは、菜々が失踪する約一年前。

 異能欲しさに増え続ける信者のために新設された教団本部。

 異能者による犯行であれば、当時の法律では証拠不十分で起訴できない可能性が高い。

 そもそも、犯行の手口も何もわかっていない。


 噂を耳にした璃子は、もしかしたら自分の知らぬ間に異能で菜々を異次元にしまってしまったのではないかと思った。

 璃子の異能は、収納したものを想像するだけで自由に体のどこからでも出現させることができる。

 しかし何度試しても、何も起こらない。

 犯人は自分ではないと少しだけホッとしたが、いなくなった親友が心配であることに変わりはない。


「璃子ちゃん、大丈夫? 顔色悪いけど……」

「大丈夫。なっちが心配なだけ」


 二学期の終業式が終わった帰り道————明日から夏休みだというのに、元気が無くなっている璃子を心配し、それまで何も言わなかった聖典が口を開く。


「ああ、菜々ちゃんの居場所なら、僕、知ってるよ」

「え……? 知っているのに、どうして上部先生に何も言わなかったの!? 何か知ってることがあったらって、上部先生が言ってたじゃない」

「だって、そんなことしたら、どうして知ってるんだって、僕の異能のことが知られてしまうかもしれないじゃない?」

「……だから何!? なっちが行方不明なんだよ!? そんなこと気にしてる場合じゃ————」

「だって、向こうも異能者だし……」

「向こうも……!? 聖典、犯人もわかってるの!?」

「当たり前じゃん。それに、犯人がわかったところで、意味がないよ。菜々ちゃんはもう、死んでるし」


(し……死んで……る?)


「殺されたんだよ。璃子ちゃんだって、本当は何となくそうじゃないかって思ってたでしょう? 何を今更、そんなに驚いているの?」


 聖典は笑っていた。

 璃子の親友の死を、笑った。


「とっくに殺されているよ。二人目の方は、まだ生きているかもしれないけどね。でも、関係ないじゃん? 僕たちには」

「関係ない……?」

「だって、話したこともない、顔も知らない人だし、助ける理由もないでしょう? どうせ、死ぬんだし……それに、異能者による犯罪って、リッショウっていうのが難しいから逮捕できないって————ぐふっ!?」


 璃子の体は、考える前に動いていた。

 聖典の左頬に、見事な右ストレートが入る。


「痛い……!! 何!? え!? 何するの璃子ちゃん!!」


 心が読める聖典は、予想外の璃子の行動に驚く。

 こんなことは初めてだった。

 殴られた。

 それも、女の子におもいっきり。

 殴られた頬を抑えながら、涙目で璃子を観ると、明らかに怒っている表情をしていて、今度は胸ぐらを掴まれる。


「何ヘラヘラ笑ってんだテメェ!! あーしの親友が殺されてんだぞ!? 言えや!! わかってること、知ってること、全部吐け!!」

「り……璃子ちゃん?」


 璃子は胸ぐらを掴んでいた手とは反対の手から、フォークを出して顔の横で構える。


「その目ぇ潰すぞ?」


 少しでもおかしなことを言えば、聖典の目左目は、今頃失明していただろう。


「わ、わかった! わかった! 全部話すから、落ち着いて! ね、璃子ちゃん」


(ぶっ殺してやる……!!)


「璃子ちゃん、璃子ちゃん、落ち着いて……お願いだから……」

「早く言えや!! 犯人は!? そいつは今どこにいる!?」

「ま、まだ学校にいるよ……多分」


(学校……!?)


「お、おい、君たち!! どうしたんだ、喧嘩はやめなさい!」


 たまたま近くに居合わせた聞き込み捜査中の刑事が、小学生二人のただならない物騒な様子に気がついて、駆け寄ってくる。

 子供がフォークを今にも刺そうと振り上げているのだから、刑事として————というか、大人として止めに入るのは当たり前だ。

 しかし、璃子にはそんな刑事の声なんて届いていなかった。


 フォークを異次元に収納し、聖典の腕を引っ張ってきた道を走る。

 学校に犯人がいる。

 菜々を殺した犯人がいる。


(なっちのかたき————!!)


 刑事は二人の後を追いかけながら、今目の前で起こった現象に首をかしげる。


「今、フォーク持ってたよな? どこに消えたんだ……?」


 まさか異能者の小学生がいるとは思っていなかっが、刑事の勘で二人に話を聞くべきだとそう判断し、後をつける。

 二人は、青春小学校の校舎に入って行った。


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