第13話 炎上炎上大炎上
「《異能》犯罪対策室……? なにそれ」
「名前の通り、異能者が起こしたと思われる事件を捜査する部署です。まぁ、特命係だと思っていただいて構いません」
「とくめいがかり……?」
「あれ? 見てません? 相棒! 右京さん!!」
「……相棒?」
鳥町は「まさかあの有名ドラマを知らないとは……」と、驚愕の表情で岡根望子ではなく兜森の方を見た。
「あー、なんでもないです。コイツの話は気にしないでください。それで、火の玉を見たのはどのあたりで……?」
岡根邸を訪ね、望子に直接現場を案内してもらった兜森。
その後ろに、鳥町はまだ「信じられない」っという表情を変えずについていく。
(ネットに出てる情報じゃぁ、まだ二十一歳だって話だけど……鳥町より大人びてるな……)
公開されていた動画や資料よりも、望子の顔は大人びて見えて、兜森は首をかしげる。
明らかに高価そうなブランドのワンピースを着ているせいか、それとも、髪型か、メイクのせいかわからない。
どちらが若いかと問題を出されたら、確実に鳥町だと答えるだろう。
「ここよ。夕食を食べ終わってダイニングから自分の部屋に戻ろうとした時……その途中で、空から火の玉が飛んで来て————」
そこは、縁側だった。
岡根邸は、周囲を高い塀で囲まれて入るが、建物は和洋折衷。
どちらかといえば、和の要素の方が強い。
縁側から見える庭も、よく管理されていてこれぞ日本庭園という雰囲気で美しかった。
今も庭師が数人で、木の剪定をしている最中だ。
池もあって、中で錦鯉が優雅に泳いでいる。
「びっくりして、反射的に手でこう、自分を守ろうとしたの。顔に向かって飛んできたから……そしたら、ちょうど手に持ってたスマホに当たって」
「————スマホケースだけが燃えた……ということですね?」
「そう。もし、あれが私に当たっていたらと思うと、怖くてたまらなくて……どうにかならないかお祖父様に頼んだの。ネットで炎上しただけで、まさか実際に燃やされるなんて、意味がわからないじゃない……それに、この二週間で何人も同じように焼死体で見つかってるんでしょう? 次は、絶対に私よ」
「え、どうして、そう思うんですか?」
「あなた、知らないの? 今バズってる動画————」
望子はスマホを操作して、動画を見せた。
ペストマスクで顔を隠した人物が、商業施設か公衆トイレの鏡の前に立ち、自分の姿を写している。
右手に撮影しているスマートフォン、左手には一番最初の被害者である暴露系Youtuberの写真を持っている。
『今から、こいつ燃やしまーす』っと、抑揚のない無機質な合成音声と字幕。
そして、画面が切り替わり、映ったのは体に火がつき、黒焦げになっていく男の姿。
撮影された部屋、そして、動画内に込んでいた時計の時間から、被害者の最後の姿であることが立証されている。
『嘘はいけないよねぇ。炎上炎上大炎上』
「な、なんだこれ……!!」
それは生配信の切り抜き動画だった。
犯人が配信で、文字通り炎上させている。
異能による殺人の瞬間だ。
「他にも同じようなものが何件か上がってて……私のもあったのよ」
生配信のアーカイブが残っていて、“承認欲求モンスター”というこのチャンネルの登録者数は急激に伸び続けていた。
昨夜配信されたものもあり、再生すると確かに火の玉のようなものが望子のスマホケースにぶつかり、燃え上がっていく様子が残っている。
『失敗したー! 明日また、チャレンジします! 炎上炎上大炎上』
そこで配信は終わっていた。
鳥町は食い入るように何度もその動画を見つめる。
「ああ、良かった。人体自然発火ってわけじゃなさそうですね。これなら、対策のしようがあります。それに多分、兜森さん、大活躍間違いなしっスよ?」
「え……? どういうことだ……?」
「火の玉が飛んできていることにさえ気付ければ、体に当たる前に兜森さんの異能で対処できるっしょ? なんの前触れもなく、突然発火するわけじゃないみたいっスから」
確かに、火の玉が飛んできて、それが触れたものだけが炎上するのだとしたら、兜森の異能で水に変えてしまうことは可能だ。
兜森は納得したが、そんな異能を兜森が持っていることを知らない望子は、話がわからず小首を傾げている。
「あーしはちょっと調べる事があるので、望子さん、死にたくなければ絶対にこの兜森から離れないようにしてください。ちょっと臭いかも知れませんが……」
「え……臭いの?」
鳥町は兜森を指差しながら笑顔でそう言って、すぐにどこかへ行ってしまった。
望子は兜森をジト目で見ながら、自分の鼻を押さえる。
「いや、誤解されるようなこと言うな!! 大丈夫です、ちゃんと毎朝シャワー浴びてますから……その顔やめてください」
「……そう?」
(あの女……絶対殺す————!!)
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