第5話 全国爆破予告事件
全国爆破予告事件。
事件の始まりは、平成三十四年十二月二十四日。
クリスマスイブで世間が賑わう中、都内のホテル数件に一斉に届いたメールと、『爆弾を仕掛けた』という非通知の電話だった。
ネット上では、イブを一緒に過ごす恋人がいない妬みによる犯行だと揶揄されていたが、実際に予告にあった数件のホテルのロビーや、客室から時限式爆弾が発見される。
爆弾自体は、兜森が処理に当たったあの爆弾と同じで、昔から映画やドラマで定番の赤か青の導線を切れば停止するものだった。
送られてきたメールのアドレスは使い捨て。
送信された場所は都内のネットカフェのPCからであることは特定されたが、送信されたとされるその時間に、そのPCを利用している客はない。
店内の監視カメラにも、PCを操作している人物は映っておらず、爆破予告の電話の方も、都内の公衆電話であることは特定できたが、防犯カメラに電話をかけている人物は映っていなかった。
しかし、奇妙なことにネットカフェの別の防犯カメラには、PCの前に置かれていたマウスが動いている様子が映っている。
公衆電話の方も、誰もそこに人はいないのだが、受話器だけが宙に浮いていた。
まるでそこに透明人間がいて、操作しているかのような映像が残っている。
つまり、異能を持つ者による犯行の可能性があったのだが、警察はその映像を無視した。
異能者による犯行の殆どは科学的に証明できないため、証拠となることはなく、意味がないからだ。
二件目は、大晦日の夜。
明治神宮、成田山新勝寺、川崎大師平間寺、浅草寺、伏見稲荷大社、鶴岡八幡宮……と、毎年参拝者が多い神社や寺に、同じように爆発予告の電話とメールが届く。
実際に爆弾が設置されていたのは、関東圏の神社だけであったが、これもまた送信に使ったと思われるネット喫茶のPCの防犯カメラにもその姿はない。
公衆電話の方も同じだ。
それから、模倣犯による同様の爆破予告が急激に増え始める。
北海道から沖縄まで、全国各所。
もちろん、そのほとんどはイタズラであるが、同じ時限式爆弾は各地で発見される。
実際に爆弾が爆発したことはなかったが、地下鉄の駅で爆弾が見つかった時は、パニックが起こりそれによって転倒したり、何人か階段から落ちたりして負傷者が出ていた。
それでも警察としては異能者による犯行の可能性があることは公表していなかったが、ネット界隈では異能者による犯行の噂が絶えない。
「上層部の奴らは、異能者の犯行だって認めたくないんスよ。実在するとはいえ、異能者はまだまだマイノリティですし……扱いに困ってるんス。御船百合子がメディアに出始めて二十五年も経って、異能者の存在はもはや当たり前のことなのに、中にはあくまで科学的に立証できないものは認めないって人もいました。で、警視総監が新しくなって、今年になってやっと、異能者による犯罪をどう扱うか、本腰を入れ始めたって感じっスね」
現在の警視総監は、初の女性。
一部週刊誌では、娘を真日本人教の信者に殺害された————なんて噂がある。
その記事によれば、当時科学的に立証できないため証拠がなく、犯人とされている信者は、結局不起訴となってしまったらしい。
これまで、異能者の犯罪は立証することができず、野放しになっていたケースが多かったが、ここ最近、やっと法改正が行われたり、異能の力を国が正式に研究するようになったりと……色々と変化しつつある。
「それで、警視総監自ら《異能》犯罪対策室を作ったのか……————」
「まぁ、そういうことっス。で、次の信号右に曲がってください」
兜森と鳥町は、最近の爆破予告のメールの送信元である『@ネットジャポン』というネットカフェへ向かっている。
鳥町は兜森に運転させ、助手席に踏ん反り返るように座りながらスマホの画面を眺めていた。
下を向いたままだと、車に酔いやすいためこの体勢らしい。
「鳥町警部……」
「あー、呼び捨てでいいスっよ? あーし、マジ年上の人に敬語とか、さん付けとかされるの嫌なんすよ。なんなら、リコピンって呼んでくれてもいいっスよ?」
「いや、それはさすがに……」
(リコピンって……トマトかよ)
「……えーと、それで、鳥町」
「なんスか?」
「さっきから一体何を見てるんだ?」
「あーこれっスか? これまで犯人が使ったとネカフェの入り口の画像っす。全部自動ドアなんスけど、自動ドアって、透明人間にも反応すんのかなーと思って」
自動ドアについて調べてみると、自動ドアのセンサーにはいくつか種類があるらしい。
熱線式、光線式、超音波など……現在は多くの自動ドアでは、光線式のセンサー。
光の反射で、そこに人がいるかどうか判断している。
「光の反射に反応してるから、黒い服とか、モコモコした服だと光を反射しづらくて反応しにくいらしくて……あーし、昔イオンでバイトしてた時、入り口の自動ドア開かなくて、めっちゃ恥ずかったことがあって……そん時は多分、床と似たような色の服を来てたからかなーと思ったんスけど……————透明人間って、光反射するんスかね?」
「しらん。俺は透明人間にあったことがないからな」
「そりゃぁ、あーしも会ったことないっスけど……兜森さんって、他の異能者に会ったことあります?」
「それもない。自分が目覚めるまで、異能とか超能力なんてものは嘘だと思っていたからな……ああ、でも、そういえば小学生の頃、隣の家に住んでいたやつが幽霊が見えるって言っていたな……」
(俺の後ろに黒い女の人が立ってるとか……そんなことばっかり言ってたが————)
「ああ、それじゃぁ、霊視ができる異能者の可能性あるっスね。まぁ、霊視の異能は本当に持っているかは同じ異能を持っている人間にしか本物かどうか判断はできないっスけど」
駐車場に車を停めると、鳥町はスマホを鏡代わりにして髪を整えた。
ほどけかけていた髪が綺麗に戻って、余計就活生感が増す。
「ところで、鳥町の異能は一体なんなんだ?」
「え、あーしっスか?」
車から降りたタイミングで兜森が尋ねると、鳥町の手からスマホが消えた。
正確にいえば、手のひらに吸い込まれるように入っていった。
まるで、体内に吸収したみたいに。
「四次元ポケットっス」
鳥町の異能は、『ものを異次元空間に収納し、自由に取り出すことができる』というもの。
鳥町の体自体が、四次元ポケットそのものだ。
「まぁ、本家とは違って、容量には限界があるんスけどね」
消えたスマホの代わりに、手のひらから警察手帳を出して見せ、鳥町は楽しそうに笑った。
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