漫才:もも○ろう
ども〜
A「いやー、最近めいっこが遊びに来ましてね」
B「ほう、そりゃかわいいでしょう。おいくつ?」
A「3歳の女の子でね、この年頃ってほら絵本とかお話好きでしょ?」
B「好きだよね〜」
A「そんでさ、もも○ろうの話してあげようと思って」
B「そりゃいいね、定番」
A「昔々、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました」
B「ふんふん」
A「おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯にいきました」
B「そう! そこで桃が流れてくるんだよね」
A「おばあさんが川で洗濯をしていると、大きな大きな桃が流れてきました」
B「ほらっ! これを持ち帰るんだよね」
A「『あれま! こりゃ珍しい、ぜひ持ち帰りましょう』」
B「そう、じいさんに見せないとね」
A「『きっとみんな驚くでしょう』と桃は言いました」
B「桃? 桃が喋ってんの?」
A「そうだよ、当たり前じゃん。桃から見たらばあさんなんて初めて見るんだから」
B「いや、そこじゃなくてさ。それに桃がばあさんを持ち帰るわけ? 大変なことになるぞ」
A「もちろん、だから ばあさんは抵抗しました」
B「そりゃそうだ。助けを呼ばなきゃ」
A「やられる前にまず脇腹に右フックを入れました」
B「自分で戦うのかよ! ってか桃の脇腹ってどこ?」
A「相手は動じていなかったようなので、ばあさんはいざというときのためのカイザーナックルを使うことになりました」
B「なんて物騒なもん隠してんんだよ」
A「……という話をじいさんにしたところ」
B「いやいや、ちょっと」
A「なに?」
B「なに、じいさんに話した? 今起きてることじゃないの?」
A「そうだよ、過去形だよ。もう戦いは終わってんだから。それでじいさんはその話を口をぽかんとして聞いていました」
B「そりゃそうだろーよ、意味わかんねーよ」
A「そしてこう言いました。ばあさんよ、武器は反則だろ」
B「そこ? もっとつっこみどころあんだろうよ」
A「それにな、階級はちゃんと揃えたんか? 不公平だろうよ」
B「ばあさんもばあさんなら、じいさんもじいさんだな! ボクサー夫婦か!?」
A「そしたらばあさんの後ろから声がしたんよ、いいんですそんなの気にしなくて、って」
B「だれ?」
A「桃だよ」
B「桃? ついてきたの? 殺し合った相手なのに?」
A「そう、ばあさんにボコボコにされて、完全にびびっちゃって。頼んでもないのにやきそばぱんなんか買ってきちゃったりして」
B「完全にパシリだな」
A「ばあさんも愛着がわいちゃってさ、その桃に」
B「桃に? 桃太郎じゃなくて?」
A「太郎? なんで人間なんだよ。桃だよ、桃。ついつい昔のこととか話し始めちゃってさ」
B「昔のこと?」
A「そう、鬼ってやつにここの宝を盗られちゃったって話」
B「そうそう、それを聞いて桃太郎が鬼退治に行くんだよな」
A「それを聞いた桃がさ」
B「桃だよね? 桃太郎じゃなく」
A「そう桃。さっきから何聞いてんの」
B「あ、そう。そんで? 桃が聞いてんのね? それで鬼退治にいくわけ?」
A「その話聞いて、桃のやつ、どうなったと思う?」
B「知らねーよ」
A「泡吹いてんの。失神しちゃった」
B「は? なんで?」
A「こんなにTUEEEEEばあさんに敵わない鬼っていうのを想像しただけで失神しちゃった」
B「だらしねーな。そんで?」
A「ばあさんやさしいからさ、その桃を大事に」
B「大事に看病?」
A「大事に埋めたあげたんだって」
B「は? 死んだの?」
A「まあ、所詮桃だし。そんなに期待はしてなかったと思う」
B「じゃあ誰が鬼退治いくんだよ」
A「そりゃばあさんしかいないだろ、じいさんに行かせる気かよ」
B「いや、じいさんもばあさんも同じくらいないだろ」
A「じいさんはだめだよ、だっていつもばあさんにしばかれてんだから」
B「しばかれてんじゃねーよ、芝刈りだって。もう意味わかんねーな、でもその話しでいくとばあさん、めっちゃ強そうだから倒しちゃうんじゃないの?」
A「それがそううまくはいかないんだよ。鬼ヶ島までは行ったんだけどさ、いきなり鬼が出てきて」
B「ほう」
A「それはそれはばあさんの何倍もの大きさと恐ろしい形相だったんだ。でもばあさんはひるむことなくこう言った。わしらから取っていった宝を返してもらおう、と」
B「ふむ」
A「そしたら鬼はにらみつけるような表情でこう言った」
B「うん」
A「それではまずこの申請書に名前と住所を記載してください。あ、住所は県からお願いします」
B「ずいぶんお役所風だな」
A「ばあさんはひるむことなくこう言い返した、ふん、そうやってまたわしらを騙そうったってそうはさせない、って」
B「前にもやられたことがあるのかな? 知らんけど」
A「それを聞いて鬼は焦ってこう説明した。いやいや、みなさんのお宝は盗んだのではなく、以前洪水で被害に遭いそうなところを我々が保護しているだけですから、しっかり申請されれば返しますよ、って」
B「鬼、いいやつじゃん。というか役所の人?」
A「それでもばあさんは負けなかった。またそうやって難しい言葉でわしらを錯乱させようったってそうはいかないよ」
B「いや、わかりやすかったけど。どう考えてもばあさんの言いがかりだな」
A「ばあさんは怒りに身を任せて鬼に殴りかかった」
B「穏やかではないな、狂ってるわ」
A「鬼は慌ててガードした」
B「そりゃそうだ」
A「するとその反発でばあさんは跳ね飛ばされた」
B「あれ? 意外ときゃしゃ?」
A「そのまま倒れて頭を強く打ってしまったんだ」
B「まあ、さすがに鬼の方が強かったんだね」
A「そのまま救急車で運ばれて、入院することになったんだ。そのお見舞いにじいさんが……」
B「おい、ちょっとまて。誰が救急車呼んだ?」
A「知らねーよ、鬼じゃね。お前関係ないところにやけに食らいつくな」
B「いきなり現代っぽくなったな、そして鬼はずっと正しいことしかしてないな」
A「お見舞いにきたじいさんは泣いたよ、悔しくて」
B「悪いのはばあさんだけどな」
A「じいさんは言った。わしがかたきを取るって」
B「だから、ちゃんと申請しろって。どうしようもない夫婦だな」
A「そしたらなんとばあさんがニヤニヤと不敵な笑みを浮かべてるんだ」
B「なんだ、気味悪いな」
A「おもむろにふところからスマホを取り出すと……」
B「時代背景めちゃくちゃだな」
A「とあるSNSの画面を見せたんだ。それをみてじいさんは驚いた」
B「なに見せたんだ?」
A「なんと見せたのは、炎上した鬼のSNSだったんだ」
B「なんで炎上すんだよ」
A「ばあさん押し倒すとか終わってる、税金もらって食わせてもらってるくせに市民に手をだすのか、とかヤフコメ民の書き込みがこれまたひどいのなんのって」
B「悪いのはばあさんだけどな」
A「結局謝罪会見で鬼は辞職するって」
B「世知辛い世の中だよ、まったく」
A「ばあさんはこう言った。社会的に抹殺してやったわって」
B「俺はいつでも鬼の味方だからな」
A「こうして宝物も取り返したことだし……」
B「は? どうやって?」
A「どうやってってそりゃ、申請書に記入したからに決まってるだろ」
B「それで返ってくるわけ?」
A「そうだけど?」
B「完全に鬼はやられ損だな。ところで桃太郎はどこで出てくんだよ」
A「何聞いてんの。ずっと出てきてたじゃん」
B「は? どこで」
A「ばあさんだよ」
B「ばあさん?」
A「最初に桃盗ろうとしただろ? だからこの話は『ももとろう』としたばあさんの話」
B「もうええわ」
ありがとうございました〜
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