142話 地上へ戻ってきた魔王一行

「……終わったか」


《魔剣融合 解除》


 俺は魔剣との融合を解除し元の姿に戻る。

 レーヴァテインも元の状態へと戻り俺の右手に収まる。


《魔剣同化 解除》


 後ろで倒れる音が聞こえたので振り向くと、メアとカゲヌイがその場に倒れこんでいた。


「ごめん、スルト……ちょっと、動け、ない……」

「勝った、のか……?」


 二人はあまりの消耗の激しさに仰向けに倒れたまま動けなくなっていた。

 どうやら魔力切れと全身筋肉痛と魔剣同化の反動によって体が悲鳴を上げているらしい。

 それに加え英雄たちとの連戦を重ねたのだから当然と言えるが。


 俺は回復魔法を二人にかけると、二人はなんとか足をふらつかせながらも立ち上がった。


「全く、だらしがないな」


 俺がそう言い放つとカゲヌイがむっとした顔をしていた。


「なんだよ、少しくらい褒めてくれたって……

 というかそもそもお前は平気なのかよ……」

「当然だ。あと同じ戦いを10回はできる」

「嘘つけ!」


 カゲヌイは怒りに満ちた顔で目を吊り上げ、こちらに抗議の声を上げる。


「こうしてお前のために戦ってやったんだから、少しくらい労いの言葉をかけてくれてもいいだろ!」


 ふむ、言われてみればそうだ。

 配下が魔王に対して尽くすのは当然と言えど、俺の悲願を達成するために二人の貢献値は相当なものだ。


「そうだな。今日は特別だ。我が悲願を達成したわけだから、戻ったらいくらでも飯を食うがいい」

「本当!?」

「言ったな、100人前は食うぞ」


 俺が報酬について話すとメアとカゲヌイは今までの疲労が嘘のようにはしゃぎだす。

 現金な奴らだな。


 終えた時は実感がなかったが、こうして二人と普段通りの会話をしていると改めて俺はついに英雄を倒したという実感が込み上げてきた。


 俺は、ついに成し遂げたのだ。

 魔王は英雄に倒されるという王道を自身の力でねじ伏せ、英雄をこの手で打ち倒した。

 これで、魔王の時代が来る。

 混沌の時代、全てが自身の思い通りになる世界。

 誰も俺の虐げることのない力こそ弱肉強食の混沌の世界が。


「なぁ、これどうやって帰るんだ?」


 俺が悦に浸っているとカゲヌイがそう聞いてくる。


 英雄ヒロは空白の魔導書と大地の魔秘石の力を使うことでこの天界へと訪れた。

 しかし俺が発動した究極の魔法は奴が奪った魔導書と魔石ごと全てを消失させてしまった。

 まずいぞ、このままじゃ天界から現世に戻れないぞ。

 せっかく野望を成し遂げたというのに置き去りエンドか?


 いや待てよ、ここは発想の転換でいっそのこと天界を支配するのもありか?

 そうと決まればさっそく——


「ん?」


 突然俺たちの地面に白い魔方陣が現れる。

 これは、天界へ転移した時と同じ転移の魔方陣か?


「あちょ、おい!俺はついでにこの天界も——」


 転移の魔方陣により俺たちは天界から現世へと強制送還されたのだった。


****


 俺たち三人は天界から転送され玉座の間に戻ってきた。


「くそっ、天界もこの俺の力で支配してやりたかった……」

「欲ばっかかいて……いつか身を滅ぼすぞお前」


 玉座の間では俺と英雄ヒロが戦った痕が残っており、あちこちの壁が魔法や剣による斬撃の痕や石の瓦礫で散乱していた。

 すると入り口から現れる人影が見えた。


「スルトか!?」


 現れたのはエーディンだった。

 俺は咳払いをしていつもの口調に戻しつつ、エーディンに状況を尋ねる。


「外の状況はどうだ?」

「魔城に入ろうとした者たちは全員アタシたちがねじ伏せた。

 裏で動いていたロキシス教団もリリーシュたちが片づけた」


 エーディンは深くため息をすると覚悟を決めたようにこちらに向き合う。


「それで——英雄ヒロは、どうなった?」

「見ろ」


 俺は究極魔法を放ったのちにその場に残った英雄ヒロの腕と聖剣エクザクスをエーディンに見せる。


「やったのか——本当に、あの英雄を——」


 エーディンはほっとしたような表情になりその場にへたり込む。


「安心するのは早いぞ、この事実を広く知らしめなけれならない」

「そうだな……」


 俺はエーディンを連れて魔城の外へと出る。


 魔城の外まで移動するとエイルがかけよってきた。


「スルト!!」

「エイルか。貴様もよく働いてくれた」


 エイルが何をしていたのかは詳しくは知らないが、その傷だらけの恰好と返り血?らしきモノを見ればどれだけ働いてくれたのかは分かるというものだ。


「……戻ってきたのね」

「俺の戦いの結果を聞かないのか?」

「聞くまでもないわ。貴方が無事に戻ってきたっていうことは……そういうことなんでしょう?」


 エイルは全てを見通すような目をしながらそう言い放った。

 魔王である俺を信じているといのは忠実な配下らしくなったじゃないか。

 そんな風に俺が満足げにほほ笑んでいるとあろうことかエイルが抱き着いてくる。


「無事で……良かった」


 エイルの表情を見ると震えながら涙が溢れていた。

 そんなに俺は頼りなかったか?

 そういえば前に聖女リカラに封印空間に閉じ込められた時にメアとカゲヌイに大分心配されたしな。

 俺と英雄ヒロが天界に飛んでいる間は俺がどこに行ったか分からず困惑していたというわけか。

 まぁ気持ちは分からないでもない。


「いらぬ心配だ。俺は何者にも負けることはない」

「……貴方っていつもそんなことばかりよね。

 少しは心配したこっちの気持ちも—―」


 すると話の途中でメアが近づいてきて両手で俺とエイルを引きはがす。

 

「スルトにくっつきすぎ。

 次やったらエイルでも許さない」


 メアが頬を膨らませている。

 そんなに俺が他人とくっつくのが嫌か?


「そんなことより、そっちの戦いはどうなった?」

「英雄ヒロの配下たち、戦争に参加していた者は全員鎮圧したわ。

 残った騎士や兵士たちも降伏してる」

「いいだろう」


 俺は満足げにほほ笑む。

 こいつらに任せたのは正解だった。

 やはり俺の目に狂いはなかったようだ。


 英雄を殺し、戦争に勝利し、敵の勢力も全て無力化した。

 あとは敗北した軍勢たちの前で英雄が死んだことを伝え、魔王が生まれたことを宣言し、恐怖に包みこみ逆らう者には死を、そうでないものは隷属させる。

 そして真の恐怖の世界を作り出す。

 魔王としての最後の仕事を達成すべく、俺は降伏した敵の騎士たちのいる場所に向けて歩き出した。

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