55話 魔剣の衝撃

「……ここまで追ってくるなんて思いませんでした」


 リカラは口調こそ丁寧口調を崩していないが、表情は心底憎たらしそうにこちらを睨みつけている。


「あいつらがリカラ様を襲った不届きものか?」

「許さん!万死に値する!」


 冒険者たちがリカラを守るべく前に出てくる。。


 俺は並んだ冒険者たちの実力を品定めする。

 ふむ、確かに実力者ぞろいだ。

 冒険者ギルドの精鋭たちを自身の護衛として連れてきたのか。


「死ねぇ!」


 先頭の大剣を構えた冒険者と、斧を持った冒険者の二人が襲い掛かってくる。

 防具や武器といった外観こそ強そうに見えるが、明らかに練度が足りていない。

 甘く見積もってもせいぜいBランク程度だな。

 俺の敵ではない。先鋒は雑魚ばかりだな。


「フン」


 俺が出るまでもなく、カゲヌイが前に出て、二人がかりで斬りかかってきた冒険者を拳による連撃で目にもとまらぬ速さで吹き飛ばした。


「がはぁっ!?」

「うがぁっ!?」


 吹き飛ばされた冒険者はそのまま動かなくなる。

 なかなかの手際だが、いかんせん数が多い。


「怯むな!相手は三人だけだ!!」


 リカラの護衛がそう叫んで冒険者たちを鼓舞する。

 すると巨大な斧を背負った筋肉隆々の冒険者がリカラの後ろから現れる。


「この俺様が相手してやるぞ、小僧ども」


 あれはリストに書いてあったな。

 たしかAランク冒険者の一人だ。


《業火付与》


 斧のAランク冒険者は斧を構えるとスキルを発動し、斧全体に凄まじい業火を纏う。

 なるほど、上位魔法並みの炎を武器に付与するスキルか。なかなか強力そうだ。


「オラァアア!!」


 炎の付与スキルを乗せた渾身の一撃を俺はレーヴァテインで受け止める。

 地響きが起こり剣同士がぶつかった衝撃波が響き渡る。


 ふむ、威力だけなら俺の一撃にも引けを取らん。


 だが、どいつもこいつもスキルに頼りすぎている。

 その程度の炎の付与、スキルに頼らずともできる。


《炎付与》


 俺はレーヴァテインに赤き魔力を込めると、それに着火するように炎の魔力を込め、やがて地獄の業火のようにレーヴァテインの刃が赤く染まる。


「なっ、なんだそれは……!?」

「さっき貴様が使ったものと同じだ」

「お、俺のスキルを再現しただと……!?」


 まぁそんな都合よく相手のスキルを模倣できたりなんかしないんだが。

 ただ単に見よう見まねで再現しただけだ。


 スキルというものは鍛錬により更に強化されることもある。

 こいつはたまたま手にしたスキルが強すぎたせいで鍛錬することもなく驕っていたようだな。

 この程度なら大量の炎魔法をレーヴァテインに付与すれば再現できる。

 きちんと鍛錬を重ねていさえすれば威力は遥かに高くなっていただろうに。


「くそがぁ!」

「フッ」


 何度も何度も武器をぶつけ合う。

 そのたびに武器同士が激しく燃え広がる。

 あたりに炎が散り、周りの冒険者が巻き添えを食らい燃え広がっている。


「ぎゃああぁっ!?」

「ぐわぁぁあっ!」


 お互いに周りの冒険者の巻き添えなど意に介すことなく戦い続ける。


 実力は拮抗している。

 一見そう見えるが、両者の間には明らかな実力の差が存在している。


 やがて、冒険者の方の斧がやがて限界を迎え、大きな亀裂が入る。


「俺の、斧が……っ!?」


 なにより、魔剣でもない武器で俺のレーヴァテインと渡り合えるわけがない。

 相手の斧は俺の連撃を受け続けたせいでバラバラに崩れ去る。


「燃えるがいい」


 その動揺の隙を見逃すはずもなく、俺は斧の冒険者を炎を付与したレーヴァテインで斬り裂いた。


「ぎゃぁぁあああああ!?」


 斧を持ったAランク冒険者はそのまま消し炭となった。


「さて、次に焼かれたい者はいるか?」


 俺は燃えたままのレーヴァテインを肩に担ぎ、残りの冒険者を威圧した。


「り、リカラ様!こいつら、とんでもない強さです!」


 冒険者の一人が俺たちの強さを目の当たりにしてすっかり意気消沈している。


「仕方ありません」

 

 リカラは杖を天高く構えて詠唱を始める。

 すると杖の先端に緑色の魔力が集まっていく。


《回復領域》


 リカラが杖を突きたてると地面を中心に半径20メートルほどの緑色に光り輝く。

 すると傷を負ったはずの護衛の騎士たちの傷が瞬く間に治っていく。


 これだけの集団に強化魔法と回復魔法をほぼ際限なくかけられるか。

 どんなに相手が強かろうが、不死身な人間たちで数で押されればやがて消耗してしまうだろう。

 なかなか厄介だな。


「おい、どれだけ吹き飛ばそうが首元を掻き切ろうが何度も起き上がってくるぞ!!」

「あれだけの致命傷からも回復するなんて……!」


 カゲヌイとメアが戦いながらそう言ってくる。

 しかし、さっきの斧の冒険者しかり、既に死んだ者は回復していない。

 すなわち、即死させるだけの攻撃を与えてやれば回復することはできない。


「首を飛ばすなり、心臓を貫くなりして回復が通用しないくらいのことをすればいいだろう」

「お前ならできるかもしれないけどな……

 そう簡単に行くもんじゃないんだよ!」


 カゲヌイが魔王の配下とあろうものが弱音を吐いてくる。


 即死していない限り足を斬られようが致命傷を負っても即座に回復できるほどの魔法を広範囲にこれだけの量の人間に付与できるとは。

 しかも今のところ魔力が枯渇しそうな気配がない。

 英雄の一人と呼ばれるだけある。凄まじいチート魔法だ。


「仕方ないな」


 俺は前に出る。

 あの魔法を使うとするか。


「チャンスは一度きりだ。俺が奴の回復魔法を解除する。奴が魔法を再発動する前にやれ」

「……信じていいんだな?」


 カゲヌイはあろうことかこの俺に疑いの言葉を投げかけてくる。


「スルトの言うことなら間違いないよ」


 メアが戦闘状態の表情を変えないままカゲヌイを諭す。

 そうだ、魔王の配下であればこう言うのが正解なのだ。


「……分かった」


 カゲヌイも納得したようだな。

 俺はレーヴァテインを地面に刺し、剣先に魔力を込める。


《魔剣の衝撃》


 剣先を中心に赤黒い衝撃波が広がっていく。

 その衝撃波に充てられたことで、護衛の騎士たちの身体強化、継続回復のバフが解除され、リカラの回復領域も消滅する。


「なっ……!?私の魔法を……解除した!?」


 この技は周囲の強化状態を強制的に解除する力を持つ。


 この技の面倒くさいところは奴が使った回復領域とは違い対象を選べないということだ。

 敵味方関係なく強化状態やバフを解除する。

 なので、メアやカゲヌイが自己強化を行っていたらそれも解除してしまう。


 だが、強化する前なら関係がない。


 メアとカゲヌイは俺の指示通り、俺が闇魔法を発動すると同時に前に飛び出す。


《雷纏》

《狂騒の赤眼》


 二人はそれぞれ雷魔法と魔眼を発動し、周囲の冒険者たちを斬り刻んでいく。


「ぐわぁっ!?」

「ぎゃぁああ!?」

「り、リカラ様……魔法をっ……がぁあっ!?」


《か、回復領——》


「させると思うか?」


 俺は杖を構えようとしていたリカラに向けて斬りかかる。

 リカラは俺の攻撃を杖で防いだ。


「ぐぅぅっ!?」


 固いな。杖ごと斬ってやるつもりだったんだが。

 あれも魔剣の一種か?

 回復の力かあの膨大な魔力の理由はこの杖にもあるかもしれないな。


「リカラ様を守れ!」

「せめて回復魔法を発動するまで時間を——」


 護衛二人が割って入ってきた。

 リカラが回復領域を再び発動するのにかかる時間はおそらく6秒といったところか。

 それだけあれば十分だ。


 俺はレーヴァテインを地面に刺し、魔力を込め始める。


《レーヴァテイン 魔剣解放 5%》


 レーヴァテインを中心に凄まじい衝撃波が巻き起こり、俺の襲い掛かろうとしていた護衛を吹き飛ばす。

 それだけでなく、魔法を唱えようとしていたリカラの詠唱を中断する。


「うぉおおおお!」

《魔力付与!!》


 懲りずに護衛の二人はリカラを守るべくこちらに向けて斬りかかかってくる。

 洗練された魔力だ。剣も腕も悪くない。

 ——だが、相手があまりにも悪すぎる。


《魔剣光波》


 俺はレーヴァテインに光の魔力を込め、そのまま薙ぎ払った。

 レーヴァテインから放たれた光波はそのまま護衛二人を真っ二つに斬り裂いた。


 この程度か。

 やはりレーヴァテインの力を開放してしまえば大抵の人間は雑魚と化すのか。


「くそっ……」


 聖女リカラは俺を見て苦虫を嚙み潰したような顔をして悔しそうにしている。

 さぞ屈辱的なことだろう。

 自身の配下たちをことごとく倒され、自身の魔法すら無効化されたのだからな。


「くっくっく」


 俺は思わず笑みをこぼしてしまう。

 さて、もうそろそろ遊びは終わりにするとしよう。

 レーヴァテインの力をどこまで引き出せるか見ものだな。

 こいつらがどれだけ耐えられるかせいぜい遊ばせてもらうとしよう。

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