40話 魔剣は代償を伴う代わりに強力な力を持つ
——ここで魔剣について少し解説しよう。
魔剣とは強力なスキルが封じられている武器を総称して魔剣と呼ぶ。
特にスキルの上位互換、魔魂スキルが封じられているものは、強力であればあるほど、それに応じた強い代償を持つ。
魔剣レーヴァテインは「装備者の望みを逆の形で叶える呪い」を持つ。
その代わりに、魔力供給、身体能力強化、同化、特殊な固有技発動と、装備者であるスルトにすら把握しきれないほど多くの能力を持つ。
スルトは鍛錬や戦いを通してレーヴァテインの力を少しずつ開放し続けている。
——そして、その力を開放し続けるほど呪いが強くなることを、スルトは知る由もない。
《魔剣開放 2%》
レーヴァテインが赤黒い衝撃波を放つ。
「なんだ、この圧は……!?」
「行くぞ」
俺はレーヴァテインを両手で握り、肩の上に構えた状態で前方に踏み込み斬りかかる。
「くっ——」
しかし避けられる。
そのままレーヴァテインは勢いあまり、そのまま地面にぶつかる。
その余波で奥にある木々や地面を抉り取ってしまう。
「なっ——」
耳狩りがレーヴァテインの威力を見て驚いている。
余波だけでこの威力、かすりでもすれば死んでもおかしくない。
《氷纏い》
耳狩りは両手に氷を纏い、鋭いナイフのように尖らせると同時にこちらに向かって斬りかかってくる。
俺はレーヴァテインを素早く動かし耳狩りの攻撃を防ぐ。
立て続けに氷の手刀二刀流による連撃を放ってくる。
レーヴァテインの威力を見て長期戦は不利と判断したか。
こちらが反撃する隙を与えないつもりか。
だが奴の攻撃は速いが、見切れないほどではない。
現に奴は一発たりとも俺に攻撃を当てられていない。
「どうした?貴様の実力はその程度か?」
「貴様……っ!」
俺が挑発してやると、 耳狩りは後ろに飛び、俺から距離を取った。
耳狩りに青い魔力が集まっていく。あれを発動させる気か。
《氷河領域》
耳狩りを中心に氷の領域が広がり地面が凍り付く。
さっきメアとカゲヌイにやった時よりも範囲は狭いが、その分発動が速い。
そのせいで魔法の発動を止める間もなく俺の足は凍り付いた。
俺の動きを止めることを優先したか。
その隙を見逃すはずもなく奴は俺の首に斬りかかってくる。
だが、足は動かせずとも手は動く。
俺はレーヴァテインを地面に突き刺し、魔力を込めて技を発動した。
《魔剣の波動》
剣先から赤黒い衝撃波が放たれ、向かってきた耳狩りを吹き飛ばす。
それと同時に、地面に展開されていた氷の領域が砕かれ破壊される。
《魔剣の波動》
その効果、周囲で発動中の魔法の強制解除。
敵味方関係なく発動するのが難点だが、なかなか使い勝手は悪くない。
なにより、相手の魔法を強制解除するなんて魔王らしいじゃないか。
耳狩りは吹き飛ばされつつもなんとか体制を立て直し後ろに下がった。
だが、こちらも待ってやる義理などない。
俺はレーヴァテインを構えたまま耳狩りに向かって真っすぐ突き進んでいく。
《氷の壁》
俺が追撃の意思を見せると耳狩りは目の前に巨大な氷の壁を展開した。
時間稼ぎのつもりか?
だが、俺にとってその程度の壁を破ることは容易い。
俺はレーヴァテインの魔力を借り、それを炎へと変換しそのままレーヴァテインに付与する。
《業火付与》
レーヴァテインがまるで地獄の業火のように赤黒い炎に包まれる。
そのまま俺は氷の壁をレーヴァテインで両断した。
氷の壁は粉々に砕かれる。
「なん、だと——」
動揺の隙を見逃さず俺はレーヴァテインの横薙ぎで耳狩りを追撃した。
耳狩りは動揺しつつも目の前を簡易な氷の盾で覆う。
だが、その程度の防御で防ぎきれるはずもない。
地獄の業火が付与されたレーヴァテインをまともに食らい、そのまま後ろに吹き飛んでいく。目の前に覆った氷の盾も粉々に破壊されてしまっている。
「ぐぉおっ……っ!」
吹き飛ばされた衝撃で何度も地面とぶつかりながら最終的に木の幹に背中を強く打ち付けたことでようやく耳狩りの体は止まった。
まだ息があるようだな。
だが、もう戦闘を続行することはできないだろう。
練習相手くらいにはなったな。
「く、そ……貴様に、ここを通らせてたまるか!!」
しかし、俺の予想と反し、耳狩りは満身創痍の状態のまま立ち上がり、全身に身体強化魔法をかけた。
おいおい、まだやるつもりか?
下手したら命に関わるぞ。
「面白い」
俺は不敵に笑った。
何度痛めつけようが這い上がってくるその根性は評価してやる。
しかし、そちらがそこまでしてこの俺を倒そうとするのならこちらも相応の力で応えねばなるまい。
俺はレーヴァテインの更なる力を開放するべくレーヴァテインに魔力を更に込めようとした。
『ウルグ、戻りなさい』
『リリーシュ様!?』
すると突然、どこからか声が聞こえた。女の声だ。
よくよく見ると、耳狩りの真横に目玉のような小さな生物が浮かんでおり、女の声はそこから出ていたようだった。
『しかし、このままでは……』
『そんな戦いの結果よりも貴方の命の方が大事よ。帰ってきなさい』
『……っ!!』
耳狩りはこちらに背を向けると、そのまま魔の森の奥に消えていく。
「ま、待て!」
「放っておけ」
カゲヌイが耳狩りを追おうとしたのを俺は静止した。
「……いいのか?」
迷いの森の方に逃げ帰ったことで確信した。
ここが奴の隠れ家だ。
そして、あいつ一人で動いてるとも思えん。
さっきの声。奴のボスだろう。
負けたからには何かしら報告に行くはず。
そうすればあちらから何かアクションを起こしてくるに違いない。
あの耳狩りを率いているということはそれ以上の実力者。
そいつを配下にすることができれば魔王軍結成への大きな一歩となる。
良い人材は多ければ多い方がいいからな。
くっくっく、そいつを必ず我が手中に収めてやる。
「戻るぞ」
耳狩りとの戦いで消耗し疲れ果てているメアとカゲヌイを手招きする。
二人はなんとか体に鞭をうって立ち上がった。
「あいつ……本当に強かったな」
カゲヌイが敗北感に打ちひしがれていた。
(あいつ……本気の私よりも強かった。
このままじゃ……人間に復讐なんてできない。
強く、ならないといけないな)
カゲヌイがそう考えていたが、横にいるメアも同様の気持ちだったようだ。
「ねぇ……カゲちゃん」
「その呼び方やめろ。なんだ」
「私に、格闘術教えてくれない?」
「……どうしてだ」
「私も……強くなりたいから」
「……分かった」
後ろで配下二人が更なる強さを得ることを決意していることに満足感を覚えながら、俺は町に向けて歩き出したのだった。
****
一方その頃、迷いの森の奥深く。
その迷いの森の主である、淫魔リリーシュが、耳狩りと呼ばれる獣人、ウルトの報告を聞いていた。
『へぇ……面白いわね』
淫魔リリーシュは妖艶な笑みを浮かべる。
『魔物の言葉を話し、獣人を配下として引き連れている人間……
そんな人間がいるなんてね。
最近退屈してたし、久々に面白いものが見れそうね』
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