24話 メアVSアミル

 一方、スルトの命令により剣術の風影ふうえい剣術の師範代であるアミルと対峙したメア。


「一つ聞きますが、貴方はなぜ私と戦うのです」

「スルトがそう言ったから」


 メアのその言葉を聞いたアミルは剣を構えたまま笑い始める。


「彼が言ったからという理由だけで人を殺すので? ハッ、随分と過激ですね」

「……? スルトよりも大事なことなんて、この世にある……?」


 メアは澄んだ瞳で、さもそれが世界の常識であるかのように、心底不思議そうに首を傾げた。

 この瞬間、アミルの背筋に言いようもない恐怖感が漂い、口元から笑みが消える。


「……成程、貴方はそういうお人ですか」


(彼が彼女にそういう命を下したということは彼は私の正体に気づいているということ。彼を始末するためにも彼女を先に始末せねば)


「よほど彼を信じているようですが、貴方では私には勝てない!」


 そう叫んだ刹那、アミルは瞬間移動と見間違う速さで前に踏み込みメアに向けて瞬く間に連続して斬撃を仕掛けた。

 一瞬反応が遅れたメアだったが咄嗟に剣を手元に引き寄せ斬撃を防いだ。

 すかさず次の斬撃を放ち、再び防ぐの流れを1秒という時間の中で何度も繰り返し、剣同士がぶつかるたびに大きな金属音と共に火花があたりに散り続ける。


「貴方は剣術の天才です。才能では私より上でしょう。しかし、貴方は……ふんっ!」

「ぐぎぃっ!」


 剣による攻撃に気を取られてばかりいたメアは、視界の外から放たれた足蹴りに反応できず、腹に当たり壁まで吹き飛ばされてしまう。


「実戦経験が圧倒的に足りていない。人の命を奪う戦いをしたこともないでしょう。そういう者は攻撃に戸惑いが生じる。その一瞬の隙が敗因となるのです」


 メアはよろけながらなんとか立ち上がるが、ずっと右眼を抑えていた。

 そう、右眼の魔眼が発動しかけているのだ。


(今まだ……使いべきじゃない……まだ、まだ!!)

「もう終わりですか。降参するなら楽に殺しますが」


はあんまり使いたくないけど……仕方ない、スルトのためなら)


 メアは今度は左目に手を当て、呼吸を整え魔力を左目に込める。

するとメアの左目がまるで海中で太陽の光に照らされた水晶のように碧く光り輝いた。


模倣もほう青眼せいがん


 メアはゆっくりと立ち上がりアミルを光り輝く左目で睨みつけた。

 アミルはメアが隠していた能力に面食らっていたがあまり焦りは見られなかった。


「——まさか、左目に魔眼を宿していたのですか。ですがその程度!」


 次の瞬間、アミルが一瞬のうちに姿を消しメアの背後に移動し剣を薙ぎ払った。

 寸前のところでメアは攻撃を防いだが体制を崩され攻撃を防ぎつつも後退一方で全く反撃できない状態が続いてしまう。


「反撃の隙なんて与えませんよ。魔眼の力を発動する前に終わらせてあげましょう。

 私の風影剣術を防ぐ貴方も賞賛に値しますが、はたしてどこまで受けきれますか?」


 アミルは次の瞬間、剣を構えると同時に剣を三つに分裂させたかのような剣技を放つ。

 風影剣術、三風斬。

 目にもとまらぬ速さで剣を振るうことでまるで一度に三つの斬撃を放っているかのように錯覚させるほどの剣術。


 メアは必死に剣でそれをはじいてはいるものの、だんだんと体中に切り傷が増えていき徐々に体力を奪われ続けており、いつかは限界が来る。そんな状態だった。


 アミルの方が圧倒的優勢。それは誰から見ても明らかだった。

 しかしアミルはこの戦闘に違和感を覚えていた。


(なんだ……?魔眼を発動させたというのにさきほどと戦闘スタイルは全く変わっていない。素早くなったわけでも攻撃の重さが変わるわけでもない。防御ばかりに徹している。

 バフをかける魔魂が宿った魔眼ではないのか……?一体何を企んでいる?)


「その足じゃ立っているのがやっとでしょう」

「もう……無理……」

「おや、ようやく諦めてくれましたか」

「もう、限界……右眼を、抑えられない……!」


 次の瞬間、メアの左眼の碧い光が輝きを失い、代わりに右眼が月光に照らされし赤玉ルビーの如く光り輝いた。


狂騒きょうそう赤眼せきがん


「右眼が赤く……まさか両目に魔眼があるのか!?そんな人間がこの世に……!」


 今度は明らかに動揺を隠すことができず焦りを表情に出すアミル。

 次の瞬間、メアが一瞬のうちに姿を消しアミル背後に移動し剣を薙ぎ払った。

 寸前のところでアミルは攻撃を防いだが体制を崩され攻撃を防ぎつつも後退させられてしまう。


「今の動きは……私の……!?」


 さっき自分が放った剣技と同じ攻撃を受けたアミルはこれまで以上に動揺し攻撃に徹することができずにいた。

 しかしアミルが動揺した理由はそれだけではなかった。


「今の斬撃、明らかに私を殺す動きだった……なんだ!?戦うのを躊躇して防戦一方だった小娘に何が起きた!?」


 すかさずメアは剣を構えると同時に剣を三つに分裂させたかのような剣技を放つ。

 アミルはなんとか剣を振り攻撃を防ぎきるが、それは明らかにさきほどアミルが放った剣技と同じものであった。


「風影剣術、三風斬……なぜ貴方が……!!」


 アミルが慌てるのも当然のことだった。

 メアの左眼に宿りし魔眼、《模倣もほう青眼せいがん》は一度見た相手の動きを模倣できるというもの。


 メアがまだこの魔眼を完全に使いこなせていないため完全に模倣するにはしばらくの間練習が必要である。


 そして右眼に宿りし魔眼、《狂騒きょうそう赤眼せきがん》はダメージを負うことで発動し本人を超好戦的なもう一つの人格へと変貌させる。


 これらの魔眼は同時発動は今のところできない。

 そのため、《狂騒の赤眼》発動中に見た相手の動きをコピーすることはできない。

 だが、《狂騒の赤眼》は本人の潜在能力を強制的に開花させるため、《狂騒の赤眼》発動前に《模倣の青眼》で見た動きや剣術は無条件で模倣できるようになる。


 今のアミルはまさに自分自身と戦っているに等しい状態であった。


(これが魔眼の力だというのか……私が血の滲むような修練をへて身に着けた努力の結晶を……見ただけで、こんな……)

「こんな小娘ごときがぁぁあああ!!!」


 幾度となく剣技を繰り返すがどんなに強力な剣術であっても模倣済のメアにとって見切るのは動作もないことであった。


「この剣術も、この動きも全て私のものだというのに……許さん……許さんぞ!」


 次の瞬間、メアの右腕がアミルの剣に貫かれた。

 手から力が抜けたメアは剣を真上に放り投げてしまう。


 風影剣術。風影一閃。速度に重きを置いた風影剣術の中でももっとも速く、回避はほぼ不可能。


 しかしこの動きもメアが模倣していれば避けられるはずだった。


 ――模倣済なら、である。

 アミルは万が一のためにこの剣術を使わずに温存しておいたのである。


「この剣技はまだ見せていませんでしたね……これでお前は……!」


 しかしメアの残された左手がアミルの肩を掴む。


「なっ……」


 どんなに振りほどこうとしてもメアの手をアミルの肩から外れない。

 それどころか凄まじい握力でアミルの肩に指がめり込むくらいに強くなっていく。


「くそがっ……離せ……貴様の負けだ!私の勝……」


 やがて上から落ちてきた剣の刀身の真ん中をメアはあろうことか歯で掴んだ。

 そしてそのままアミルの首を貫いた。

 アミルの首から血が噴き出し、吐血する。

 勝敗が確定しメアはようやくアミルの肩から手を離した。


「が、はぁっ……き、きさま……」


 そのままアミルはその場に倒れ動かなくなり、もの言わぬし屍と化した。

 そして光り輝いていたメアの右眼が光を失い元の瞳の色を取り戻す。


 メアはようやく取り戻した意識の中空を見上げた。

 空は憎ましいほど清んだ空であった。

 その意識の中で考えていたのは自身が最も尊敬している異性のことであった。


「これで……少しは役に立てたかな……する、と……」


 そのままメアは仰向けに倒れこんだ。



模倣もほう青眼せいがん

種:魔眼

能力:一度見た剣術、動きを模倣できる。使用者の練度次第ではある程度の練習が必要になる。

代償:使用中魔力消費。肉体的疲労増加。使用者の練度次第では抑制可能。

 他の魔眼と同時発動不可。


狂騒きょうそう赤眼せきがん

種:魔眼

能力:ダメージを受けるか魔力を込めることで発動。使用者の身体能力を大幅に上げ潜在能力を引き出す。

代償:使用中意識を失い暴走する。使用者の練度次第では抑制可能。

 他の魔眼と同時発動不可。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る