第22話 競いの館

 八月五日。暑さが日々増すそんな中、今日から五日間中央区の中にある会場、「競いの館」で日月競技対抗戦が開催される。

 日月競技対抗戦は龍助達が通う高校含む六校の特大イベントだ。

 運動系から文化系というたくさんの部活の大会が一つの場所で行われる。


 龍助達も学校へ行くのではなく、直接会場へと赴く。


 中央区の中にあるので、大した移動距離ではなく、すぐに会場の入口に入った。


「いよいよだな……。緊張する……」

「大丈夫よ! しっかり応援するから!」


 龍助の不安げな声に叶夜がいつもの持ち前の明るさで龍助に活を入れてくれる。

 それを見ていた舞日や穂春がニコニコと暖かい目で見ていた。


「怪我には気をつけながら頑張ってね」

「ありがとな。叶夜、舞日」


 活を入れてくれた叶夜と怪我に対して心配してくれた舞日に感謝しながら、少し深呼吸をする。

 自分の不安が全て出ていくわけではないが、口から悪いものが出ていく感覚がして気楽になれる。


「先輩も出場するのは意外でしたね」

「孝介も今回は穂春達と一緒にいるんだな」

「はい! 先輩の応援したいんで」

「ありがとな」


 龍助の深呼吸をし終わったタイミングで孝介が話しかけてきた。


 孝介は以前敵として龍助達の前に立ちはだかったが、彼らに助けられ、改心をし、罪滅ぼしとしてTPBで働くことになった少年だ。


 最近は学校と仕事の両立で忙しく、なかなか交流が出来なかった孝介。

 しかし今回大規模なイベントの中、龍助の応援をしたいという孝介は穂春達と行動を共にするようだ。そのために、仕事はお休みにしたらしい。


「わざわざごめんな。仕事休ませて」

「いえいえ! 俺も来たかったし、いづみさんもこっち優先にしたら良いと言ってくれてますから」

「それなら良かった」


 応援をしたい一心で仕事の日を休みにしてくれた孝介に素直な気持ちで感謝する龍助。


 なんだかんだ話しながら歩いていた龍助達は月桜高校の控え室へと辿り着く。

 控え室は六校それぞれ用意されており、そこで作戦会議や休憩、準備を行うのだ。


 中へ入ると、それぞれの部活の生徒達や顧問の教師達で蔓延はびこっていた。

 広さは千人以上入れる宴会場並だ。全ての部活の部員が入ってもまだ余裕がある。


「空手部はあそこみたいですね」


 穂春が指し示した方へ視線を向けると、空手部と書かれた札が掲げられている箇所があった。

 龍助達はそこへ向かうと、空手部の部員たちも気づいて手招きをしてくれる。


「俺で最後ですか?」

「そうだな。これで全員揃ったな」


 どうやら龍助が最後だったらしく、寺本先生が名簿にある龍助の名前にレ点を入れた。

 かなり早めに来たつもりだったが、それよりも早く来ていた部員や顧問達に対して驚きを隠せない龍助。


「さて、天地も来たことだし、皆軽く準備運動とか練習をしておけ」


 寺本先生の指示にいつもの元気な声で返事をする部員達。

 この控え室の隣は外へと繋がっており、好きなタイミングで練習することも出来るのだ。

 管轄かんかつは決められているが、控え室と同じくらいの広さはある。


「でも特大イベントとは言え、規格外の広さだね」

「俺もここは初めてだからめちゃくちゃ驚いてる」


 叶夜が関心の眼差しで外と室内を見回している。

 龍助も去年は応援だったため、この控え室に来るのは初めてだった。


「じゃあ私たち応援席に行くから、龍助も無理なく頑張ってね」

「おう。ありがとう」


 そろそろ邪魔になると感じたのか、叶夜達が控え室から出ていった。

 龍助はそれを見送り、控え室で準備運動を進めていく。


「天地。頼りにしてるぞ」

「精一杯頑張ります」


 一緒に準備運動をしていた奥田に焚き付けられるように龍助が気合いのある返事をした。

 そして龍助は、奥田が突きつけてきた拳に自身の拳を合わせる。


 この瞬間に、龍助は大会への緊張感を感じ、自分も選手の一人だという実感がやっと沸いてきたのだった。

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