第21話 退屈な一日

 ある日の夜に眠りに入った龍助は、その日は不思議と夢を見ることはなかった。

 そして闇の中にあった意識は徐々に復活していき、龍助が目を覚ますと、もう部屋に朝日が差し込んでいた。


「なんかいつもよりスッキリしてるな」


 龍助がベッドの上で伸びをすると、体から悪いものが出ていく感覚となって気持ちよく感じる。

 夢も見ていないので、おそらくかなり深い睡眠をしていたのだろう。


「そろそろ朝食の時間だし、食堂に行くか」


 丁度空腹にもなってきたので、龍助は部屋から出て食堂へと向かう。

 その道中に昨日見た風景を思い出し、ふと外を見てみる。

 施設の敷地外にたたずんでいた巨大な影。今は特になんの気配もなくいつもの光景が広がっていた。


「龍助。おはよう」

「ああ、おはよう」


 外を眺めていると叶夜が話しかけてきたので龍助も返事をする。

 龍助を朝食に呼ぶためにわざわざ来てくれたようだ。


「外なんか見てどうしたの?」

「実は昨日の夜……」


 叶夜に聞かれた龍助が昨日の夜中の出来事を一通り話した。

 聞いた叶夜は少し驚いた表情をしており、心配そうにしている。


「舞日が言ってたのなら間違いないかもね。あの事件以来、化身の姿は見てないからなんとも思ってなかったけど……」

「こっちが気づいてないだけで動いてるのかもな」

「一応報告だけでもしていた方が良いわね」


 化身という人外は下手をすれば人類を滅ぼしかねないため、警戒は必須となる。

 ただ、龍助が初めて参加した任務の際に接触した化身以来、全くと言っていいほど動きがなかった。

 その上TBBの動きが激しくなっていて、龍助達はその存在を忘れてしまっていたのだ。


「おふたりとも、皆さんが待ってますよ」

「ああごめん」

「すぐに行くわ」


 廊下で二人して話し込んでいると、叶夜の背後から穂春がやって来た。

 なかなか来ない二人を心配して呼びに来てくれたようだ。

 急いで二人も食堂へと向かっていった。


 ◇◆◇


 朝食を済ませた後、叶夜達は少しだけ施設でゆっくりしてから帰って行った。

 明日から日月競技対抗戦があるため、皆それぞれ休むことにしたのだ。


「いよいよ明日ですね。兄さん頑張って下さいね」

「出来る限りで頑張るよ」


 龍助も月桜高校の空手部代表の一人として出場するのでしっかり休息を取らなければならない。

 叶夜達は応援をするだけだが、それだけでもかなり大変になるだろう。

 日月競技対抗戦は最低でも五日間はかかるくらい大きなイベントなのだ。


 龍助はいつものように施設の子供達と遊ぼうと思ったが、その子供達に明日のために休めと言われてしまった。


 内心悲しくなるも、せっかくの気遣いだから休むことに専念しようとした龍助。


(といっても、退屈だな……)


 部屋で一人ベッドの上で寝転がっている龍助だが、退屈すぎて逆に落ち着かないでいる。


 そんな中ふと、昔のことを思い出す。

 小さい龍助達を救ってくれた少年の言っていた言葉だ。


「人生の最大の敵は退屈です」


 この言葉をまだ小さい少年が口にしたと今考えると、とても子供とは思えなくなる。


 人生で退屈になると、人は余計なことを考え、刺激を求めて何をしでかすか分からなくなる。

 だから彼は人生の最大の敵は退屈だと言っていたのだ。


 まだ小さかった龍助達にはその意味が分からなかったが、今思うとすんなりと納得出来た。


「まあ今日は動画でも見ておくか」


 することがなかった龍助は動画を見て一日を過ごすことにしたのだった。

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