宿命の力者

@hosinosizuku

第一部 一章 開花編

プロローグ


 東京都中央区にある小さな町の中に不自然なビルが一つ建っている。

 敷地も大して広くはなく、人気もない場所にひっそりと建っているので、廃墟かと思うくらいだ。

 しかし、その中は沢山の人々が場所を行き交かいしている。

 まるで、現実世界とは別世界が広がっているようだった。

 そんな多くの部屋の中でも、ビルの最奥さいおう部に位置する部屋の中には異空間が存在しており、そこにはが戦闘訓練をしている者達が多数いた。

 格闘訓練、筋トレ、そして[力者りきしゃ]としての訓練と、人によって様々だ。

 そして、その中でも激しい模擬戦をしている二人がいた。


 片や黒髪短髪の高身長の少年で、その手には警棒を握りしめている。

 片や茶色に染めた髪を持つ男が何も持たずにただ突っ立っている。

 二人は睨み合っていたが、先に動き出したのは警棒を持った少年だ。

 一瞬で姿を消し、相手の目の前で警棒を振り下ろすが、まるで見えない何かに受け流されるように攻撃が標的かられてしまう。


「……ッ!!」


 攻撃を受け流された拍子ひょうしに、警棒は地面に叩きつけられてしまう。

 その衝撃でその場一面に地響きが起きるが、その反動で少年の腕に激痛が走る。

 痛みにこらえながら後退した。


龍助りゅうすけ、これ以上はやめた方がいい。力者の致命傷が出始めてるよ」

「大丈夫。まだやれる……」


 少年の様子を見守りながら相手をしている茶髪の男が声をかけた。

 龍助と呼ばれた少年はまだ継続する意志を示しながら立ち直り、手合わせの続きを始めたが、すぐに異常事態が起こった。

 彼の体から、とてつもなく大きい力が溢れ出ている。

 足元の地面に大きくヒビの線が広がっていっており、二人の手合わせを見ている者たちはそれを見るのも恐ろしく感じてしまった。

 大きな力をまとった龍助が先ほどとは比にならないくらいの速さで相手に迫る。

 その様子を見てみると、龍助の体からおびただしい力が溢れており、目から血が流れていた。

 もはや見ているのも辛いくらいだ。

 ずっと相手をしていた茶髪男は、流石の異常事態にすぐ対処するために攻撃を繰り出そうとした龍助を自身の瞳に映し、両目を青く光らせた。

 すると映った人物が膝から崩れ落ち、それを確認すると男はすぐにスマホを取り出してどこかに電話をかける。


「悪いけど、一時的に能力を無しにしたよ」


 意識が遠のいていく龍助に語りかけながら男は彼の様子を見ている。


「お待たせ致しました」

千聖ちひろ。頼んだ」

「承知致しました。けいさん」


 男の背後から優しく心地よい声が語りかけてきた。

 振り返ると、そこには黒いふち眼鏡をかけ、白衣を来た男性が立っていた。

 男こと京に託された、千聖は笑顔で承諾して、すぐに診察していく。

 目を開いたり、胸の音を聞いてみたりと様々な方法で様子を見ていった。


「京さんの言う通り、暴走になりかけてますね。急いで医務室に運ばないと」


 千聖が龍助を運んでもらうようにお願いし、それを承諾した京と呼ばれた男は、病人の負担にならないよう慎重におんぶした。

 魔法や術などを使えばすぐに医務室に着くが、下手に力を使えば、暴走が悪化する恐れもあるので、医務室へは歩いていくことにした。


 京が医務室に到着し、龍助をベッドに寝かせると、後のことは千聖に任せた。

 と言っても、念には念をということで、傍で見守ることにした。

 治療を受けていく龍助を見て、京はこう思った。


(こんな早すぎる暴走はありえないぞ……)


 本来の暴走は力者に目覚めてから大体二ヶ月後に発生しやすいものなので、力者になってまだ数週間しか経っていない龍助が暴走を起こすのはありえないと京は考えていた。


「千聖、彼の力って、もしかして……」

「ええ、龍助君は複数の能力を持ってますね。それも一つは強大な」


 千聖の返答に京は何やら考え込んでいる。こんな早くに暴走したとなると、考えられる可能性は彼に強大な力が宿っているというものだ。

 力が強ければ強いほど、抑えるのが難しくなり、許容量を超えた結果暴走へとなってしまう。

 さらに本来、力者が生まれつき持っている能力は一人につき一つだけが多い。それなのに、龍助にはそれが複数以上あるというこの事実はあまりにも異常である。

 前例がないので、誰もが困惑してしてしまう結果なのだ。


「これはかなり大変なことになりそうだな……。奴らはまた必ず龍助を狙って来るだろうし」


 京にいつもの軽いテンションはなく、かなり難しい顔をして悩んでいた。

 強大な力を持つ者をどう助け、どう導いていったら良いものかと。

 強い力を持つ者にはそれ以上に強い精神力が求められる。それを指導するというのはかなり大変なことなのだ。


「僕たち力者は人によって違いますが、これだけ強い力を持ってしまったのは、ある意味悲しいですね」


 千聖の言葉に京は溜め息を吐きつつ、今後の計画を立てていく。

 力があるというのは凄い反面、辛いことが多々あるのだ。この力は果たしてなんの為にあるのかは、まだ誰にも分からない。


 この世界には、力者りきしゃと呼ばれる力ある者達が存在している。

 その者達は時として魔法を使う魔法使い、術を使う術師、または能力を持った能力者と呼ばれている。

 これだけでも一般では非常識だが、それ以外にも人知が及ばない偉大な力も存在しており、その力を駆使するのも解明していくのもまた彼ら力者なのだ。

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