焦燥
@Yo0612hu
第1話 気付き
「ゴスッ」
形容し難いような鈍い音が部屋に響き、義村はふと我に帰った。深夜2時、寝静まった街の静けさとは裏腹に、義村の心は今までにないほどの高鳴りを憶えた。
「ってことはさぁ、やっぱりクロじゃねぇの?秋穂ちゃん。」
「やめてくれよ、ただでさえ不安で死にそうなんだから。」
××県丸川市、市の中心駅である丸川駅から程近い場所にある純喫茶サボタージュ。純喫茶ならではのレトロな佇まいに反して、店内は若い大学生で埋め尽くされており、初訪者は多少の違和感を憶えるだろう。丸川駅から徒歩5分、地元1番の難関大学である丸川公立大学に通う義村は、数少ない友人の1人であり、親友である高辻にコーヒー1杯分の値段で、ある相談を持ちかけていた。
彼女である佐川秋穂の浮気を疑い始めたのは、10日前に起きた些細な出来事からだった。
「あれ、秋穂ってそんなネックレス持ってたっけ?買ったの?最近。」
「あぁ、これ?友達から貰ったの。ほら私こないだ誕生日だったでしょ。その時に。」
「ふーん、そうなんだ。いいね中々。」
一応肯定するような言葉をかけてみたものの、、、おかしい。義村の胸中はそう感じていた。秋穂が身につけていたネックレスはかなり線が太く、どう考えても彼女の好みの物とは思えない。秋穂の友達であれば彼女の好みもある程度は知っているはずだろう。であればもっと細身のネックレスを選ぶはずだ。考えれば考えるほど頭にはできれば避けたい思考しか巡ってこない。
「いやいや、秋穂に限ってそれはない。うん、ない。ない、絶対ない。」
トイレの中で自分に言い聞かすようにそう呟き、義村はいつものように支度を始めた。
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