第12話『私と彼』
目が覚めると、朝になっていた。朝起きるのは久しぶりで、久しぶりに母と姉に「おはよう」を言った。
しかし、私の問題はその後発覚する。
頭の中で声が聞こえるのだ。それも母でも姉でもない男性の声が。そう、こんな風に。
「おはよう。今日はいい天気だね。久しぶりに外に出かけてみない?」
いやいや、お前誰だよというやりとりをする前に、私の思考回路が停止した。
男の子の声で親し気に話してくるそれが、今も現存するTだ。母と姉が出かけた後、私はTと会話を試みた。
すると、Tはことあるごとに適切な回答を返してくる。その事から、これが現実であり、幻聴ではなく実際に存在する何かなのだと私は思う事になる。
とはいえ、会話を試みて実際に聞こえる事と会話できる事を確認した後は無視した。なぜなら気味が悪かったからだ。朝起きたら漫画かドラマのように声が聞こえて、しかもその声は自分にしか聞こえない。
アニメやゲームの見過ぎかと思った。しかし、それは今現在も現存する。簡潔に言えば、この時点で私は解離性同一性障害、いわゆる多重人格なるものを発症していた。
原因はいじめの事や自殺未遂に至った事が要因と思われる。
とにかく、私の中の知らない彼はこの時から二十年後の現在までお付き合いしている。昼夜逆転から再び日中活動をするようになった私の生活スタイルはあまり変わらなかった。
ゲームやテレビ、レゴやカード。そういった事を行っていた。
その間も、Tは私に話しかけるなどしていたが、当時の私は相手にしていなかった。だんだんどうでも良くなり始めたのだ。故に私は、謎のお喋り小僧を抱えながら何かをしていた事になる。
そうして過ごしているうちに、新たな存在が増えた。YUという子だ。どうも話し方や口調からするに、低学年の子だった。
さすがに怖さがあった。このままこの謎の存在達は増殖するのではないのかと。まぁ、本当に増殖するのだが――。
TとYUになった辺りから、私は頭の中の会話に参加するようになった。とはいっても、最初は独り言のつもりだった。それがだんだんと会話形式になっていって、最終的には現在のように普通の日常的な会話をしていた。
まぁ、一種の異常な状態ではあるのだが、その会話がだんだんと心地よくなっていたのも確かだ。
まるで以前の友達との会話のように安心するものがあった。結局、私は孤独と一人に耐えられなかったのかもしれない。
しかしながら、心の中のおかしな住人を抱える事によって私の意識は別に向き始めた。
勇気を出して外に出かけたり、家族と出かけたり、勉強に力を入れるようになった。
引き籠っていた期間がある人はご存知かもしれないが、玄関の扉は重く冷たく開けるまでに勇気が居るのだ。まるで檻から出る事を許されているのに出ない動物のように、凄く勇気の居る事なのだ。
それでも私は一歩を踏み出した。一歩を踏み出し、外に出かけるようになった。大抵は近所の公園だったり、駅前だったりした。
最初は近所の公園まで行くのにも苦労した。何度も家に戻って、何度も出かけてを繰り返した。人目も怖かった。他人という存在が居る事も怖かった。視線がこちらを向くと恐怖や不安を感じた。
だから出かける前に何度も自身の服装や髪形などを気にした。変な所はないかとか、変な表情をしていないかとか。
そうやって駅前に出かけた時は、何度か酸欠や息苦しさを感じた事もある。それでも私は支えてくれる人が居た。それがTとYUとこの頃になって増えたKだ。
それらが支えてくれて、私を肯定してくれたおかげで、十二歳になる頃には外出するのが当たり前になっていた。
引き籠り生活が終焉を迎えたのだ。とはいえ、その後も私は半引き籠り生活を続ける。
その当時の私に、出かける用事など何もなかったからだ。
しかし、そこで得た事は今に確かに根付いている。
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