一番のチートは主人公補正です

歩く天使

第1話 どんな加護を貰おうか

どうもこんにちは、俺はどこにでもいるようなただのラノベ好きの厨二病の逆張りの陰キャの高校二年生、淡島広。


現在、宇宙空間のような景色が広がっている場所に立っていて、目の前には女神と思わしき美しい女性がキラキラして派手過ぎる趣味の悪いソファに座っているという状況だ。


俺だったらあんなソファ、ダサいから絶対に使わない。


少し前に遡るが、俺は学校という無意味な施設からの帰路でいきなりここに飛ばされた、いや、召喚されたが正しいか。


ということで恐らく俺は今から異世界系ラノベのお約束をなぞることになるだろう。


初動は重要だからな、無難に行こう。


俺は汗を体中から吹き出させ、顔に不安な表情を被せる。そして、足を少し不安定に揺らすことで完成だ。いきなりの出来事に驚きと不安で怯えている一般人のものまね。


最後のトッピングは。


「こっ、こっ、こっ、ここはどこですかぁぁ!?」


俺は上手い具合にビブラートを聞かせ、声に恐怖の感情を乗せる。


歌い手に憧れて、独学で歌の練習をしていたのがまさかこんな場面で活かされるとは。人生、なんでもやってみるものだな。


「怖がらないで下さい、淡島さんはまだ死んでいません。そして、私はあなたに危害を加えることは絶対にありません。だから、大丈夫ですよ」


俺の演技が上手くいったのか、趣味の悪いソファに座っている女性が俺に優しい表情を向けながら言った。


「そ、そんなこと言われたって…僕はどうなったんですか!?あなたは誰なんですか!それになぜ僕の名前を!」


我ながら、この二言目は良かったと思う。


まだ状況の整理がついていないという一般人ムーヴを繰り出しながら、相手の素性をさり気なく探る。


完璧すぎる。


「私は女神イリヴァと申します。ある世界の管理者をしています。あなたは私が管理している世界の人数合わせの為に、他の世界から連れてきました。なのであなたは死んだ訳ではありません。安心してください。ですが、元の世界には戻れないだろうと思います。どうなるか分かりませんけどね。もしかしたら、また人数合わせによって戻れるかもしれませんが確率は極めて低いでしょうね。それと名前を知っているのは私が世界の管理者だからです」


いきなり凄い喋り出したから驚いた。


かなりの量を一気に言われたが俺はすぐに俺が置かれている状況は理解した。


要するにこいつらの身勝手な都合に付き合わされたということだな。


にしても連れてきた奴が俺で厨二病真っ只中の俺で良かったな。


他のまともな奴であれば元の世界に返せと喚き散らし、怒り狂っていたところだ。


幸いにも俺は元の世界に未練はない。両親や仲が良かった友達に別れを言えなかったのは流石に思うところがあるが、帰りたいとは思わない。むしろこの状況を楽しんでいる。


俺はこういう非日常を待ちに待っていたからな。


一応、もう少し、演技を続けるとするか。


「いきなりそ、そんなこと言われたって、分かりませぇん!」


「もうその演技やらなくていいですよ」


女神が食い気味に言った。


演技?なぜ演技と分かった?


「私たち神は自分より階位が下の生命体の思考が見えるのです」


え…


え?



「今とても恥ずかしがって…」


「もうそれ以上言葉を発さないでくれますか。すいません」


俺は女神様の言葉を皆まで言う前に断ち切った。


顔の温度が上昇していくのを鮮明に感じ、女神様の足元に視線を落とす。


「女神様。さっさと転移させてください。お願いします」


「心中お察しします。では説明を簡潔にさせていただきますね」


そう言うと女神はさっきまでのはなかったかのように俺がこれから転移する世界のことについて話し始めた。


何か言葉をかけられるよりなかったことにしてもらう方が断然良い。


ありがとう女神様。


女神様の話によると俺がこれから転移する世界は魔法が使えるファンタジーな世界、異世界ラノベでよくある世界、RPGゲームでよくある世界だ。


その世界ではゲームのようになっていて、レベル、スキルという概念がある。


レベルを上げることで強くなっていく。


レベルが上がるとステータスが上がるのと同時に体力とマジックポイントが全回復する。その際、バフとデバフがリセットされることはなく、継続される。


『ステータスオープン』と詠唱することで自分のレベルや次のレベルアップまでに必要な経験値数、オープン時の体力、マジックポイント、筋力、速さ、バフ、デバフ、加護が表示される。


スキルをレベルアップした際に貰えるスキルポイントで習得すると、習得したスキルを詠唱するだけで自動でマジックポイントを消費して放つことができる。


スキルを習得する時は『スキルメニュー』と詠唱すると【スキルポイント振り分け】という項目が表示され、それを選択し、習得したいスキルを選択する。中には前提スキルがないと習得できないものや習得に条件があるものが存在する。


スキルメニューには【スキルポイント振り分け】の他に【スキル表示】という項目があり、それを選択すると自分が習得したスキルが全て表示され、さらにスキルを選択するとその選択したスキルの内容まで細かく表示される。


まぁ、ほとんどRPGゲームシステムと一緒だな。


言語に関しては転生だから問題ないと言われた。


「転生の前に一つだけ」


「なんです?」


「こちらの都合で淡島さんは前の世界の人生がなくなってしまったので、そのお詫びとして女神の加護を与えることができるのですが。どういうのがいいですか?」


「どういうのってどういうこと?」


「我々は加護を作ることができるので、淡島さんがこういう加護が欲しいと思った内容をお伝えしていただければその通りの加護をあなたにお与えするということです」


「なるほど…」


自分で加護を決めることができるなんてあまりにもチートすぎる。


まぁ、遠慮なんてしないけど。


身体異常再生だったり、全ての武術の才だったり、素の身体能力が高い系の加護はライトノベルで大量に見たからつまらない。


何かもっと、こう、興奮を与えてくれるような、楽しそうな加護はないか…



あ。


ある、あるぞ。


どうなるのか予想のつかない加護が。


「じゃあ、主人公補正の加護欲しいです」


「主人公補正…ですか」


「流石に無理ですか?」


「いえ、大丈夫です。ただ、予想がつかないので。あの何か具体的にこういうのっていうのはないですか?」


主人公補正に具体性なんてなくないか?


あれって人によって捉え方が変わるから曖昧なものだ。


でも今のままでは作ることができなさそうだし。


「では僕が今から主人公補正の場面を想像するのでそれを見てもらって参考にして生み出してもらえますか?」


「分かりました」


俺は俺の想像の主人公補正の場面をいくつか思い浮かべた。


「…ありがとうございます。これでやってみます。しかし、思い通りになるかどうかは分かりませんのでそこはご了承ください」


「大丈夫ですよ。自分でも無理言っているのは分かってるんで」


「ありがとうございます。それでは少々お待ちを」


そう言って女神は消えた。


数分後、いつの間にか戻って来ていた。


そして話し始める。


「加護は完成しました。そして、もう既に淡島さんに与えさせていただきました」


仕事が早いな。


何も変わった感じはないけど女神が言っているのだから与えられたのだろう。


「ですが、淡島さんの想像通りのような加護になったかは分かりません。そこはご了承ください」


流石にな。


だけどそういう方がどうなるか予想がつかないから楽しそうだ。


「大丈夫ですよ。そっちの方が僕的にはいいので」


「そうですか、ありがとうございます。では今から転生を始めます。記憶は引き継ぎますか?それとも引き継ぎませんか?」


恐らく引き継がない方が情報がゼロからだから向こうの世界に馴染めるだろうけど、二つの世界の記憶を持っているとか絶対にない経験だろうし、小さい頃から思考が成熟していたら効率よく世界を堪能できるだろうから引き継ぐか。


「引き継ぎます」


「承知しました。ではそこにある転生陣の上へ立ってください」


女神が指を指した方向にさっきまでなかった陣が出てきていた。


俺は彼女に言われた通り、陣の上に移動する。


すると、陣は光り始めて徐々に俺の視界を白で包んでいく。


「淡島広さん。いってらっしゃい。いい人生を祈っています」


「はい、この上ないくらい謳歌しますよ」


それが俺が最後に女神に言った言葉だった。


さて、どうなるのか楽しみだ。

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