第10話 国外逃亡
ジェルマン副団長は魔法師だ。
魔法師の特徴は魔力の限度があり、長期戦を不得意だということ。
つまり、必ず、長期戦には持ち込まないはずだ。
素早く近づく、俺にジェルマンは即座に魔方陣を展開し、放射魔法を放った。
先ほどよりも威力は低いお粗末な魔法だったが、今の行動を見るに近づけたくないことがわかる。
おそらく、後ろで控えている魔方陣を構築している魔法でけりをつける気だ。
なら、魔方陣が完成する前に、ジェルマン副団長を倒せばいいだけだ。
「前より早くなっているだと」
「それはどうも」
何度も近づき、攻撃しようとするも放射魔法が邪魔をする。
こっち未来が見て行動しているのに、気づけばその先を攻撃されている。一体どういうことだ。
「ウル、君はまさか、未来が見えているのか?」
「んっ!?」
「なるほど、そういうことか」
未来が見えているのがばれた。
「ここまでの君の動きはまるで魔法が発動する瞬間がわかっていたような動きだった。しかし、その説明は未来が分かっていれば、説明がつく。試してみたいものだ、その目がどこまで未来を見通せるのか」
「何をする気…………んっ!?」
瞬間、両目に激痛が走る。
なんだ、この数の未来は…………。
流れ込んでくる様々な未来、その数は数十、数百を超えていた。
「未来視を防ぐ方法は簡単だ。単純に選択肢を増やせばいい。こういう風にたくさんの魔法を使う動作や仕草をすることでね。そして私の予想通り、見通せる未来には限りがあるようだな」
後ろに控えてた魔法陣が強い光を放つ。
「そして今こそ君を殺す絶好のチャンスだっ!!これぞ、魔法師の極地っ!超越魔法っ!!」
魔法人が何重にも連なり、天へと昇る。
それはまるで人知を超えた光景だった。
「うぅ…………」
ダメだ。未来が見えすぎて、一歩も動けない。
常に流れ続ける未来、早く止めなければ、俺がやられる。
魔女との契約でさらに強くなった俺がこの瞬間、死がまじかに感じた。
「これで終わりだ、ウルっ!!起動っ!フォール・エクスプレスっ!!」
ダメだ、よけられない。
その時だった。
鐘の音が鳴り響く。
「こんなところで死ねれたら困るよ、ウルくん」
「シル?」
透明魔法で隠れていた灰色の魔女シルが目の前に現れた。
「そうだよっ!ウルくんの大切なパートナーのシルちゃんですっ!」
すべてが静止している光景。
ジェルマン副団長の超越魔法が発動して間のないところで、シルが時を止めたのだ。
「危なかったね。もし、この魔法を受けてたら、いくらウルくんでも無傷では済まなかったよ」
「助けてほしいなんて言ってないぞ」
「そうだね。でも救われたのは事実でしょ。さて、どうしよっか?このまま私が彼を始末してもいいんだけど…………どうする?」
シルからすればこの戦いが戦いにすら見えていないのだろう。
態度で戦いを軽視しているのが俺にはわかる。
「いや、俺が戦う。だから時間を動かせ」
「いいの?このままだと、ちょ・く・げ・き・だぞっ!」
「もう手加減はしない。本気で殺しにいく」
戦場では、殺しをためらった者から死んでいく。
そのことを俺はよく知っていたはずだ。
ジェルマン副団長は俺を本気で殺しにかかっている。なら、俺も全力を出さなきゃ、殺されるだけだ。
「いいね、いい目だねぇ…………うふふふふふ。それじゃあ、頑張ってね。私のウルくん」
その言葉を皮切りに停止した時間が動き始める。
「これで終わりだ、ウルっ!!」
超越魔法フォール・エクスプレスは広範囲内に何倍もの重力を降らせる魔法だ。
直撃すれば、肉体が保てず、つぶれて死んでしまうだろう。
だが、俺は違う。
灰色の魔女シルの契約によって得られた二つ目の力がある。
それは、魔女の権能。
その身に闇を纏い、一時的に灰色の魔女シルの力を扱うことできる力。
「…………静止しろ」
「な、なにが起こったんだ…………」
本来、降り注ぐはずの魔法がその場で止まった。
その異様な光景にジェルマン副団長は混乱する。
「ウル、君は一体、私の魔法に何をしたんだっ!」
「少しの間、止まってもらっただけですよ、ジェルマン副団長」
「止まってもらっただけど、そんなことできるはずがない」
「そうだろうか?」
「そうだっ!時間を制御する魔法は魔法師にとって永遠のテーマだ。そう簡単に時間に干渉することなんてできるはずがないっ!!」
「いるだろ?時間に干渉できるただ一人の魔法師が」
「何を言っている」
「七厄災の頂点にして最強の灰色の魔女が」
「んっ!?」
「もう終わりにしよう。俺にはこの時間すら惜しいんだ」
「ウル、君はまだ反省していないんだな。ガレウス団長殺し、このように収容所にいる人間を皆殺しにして、いったい何がしたいんだっ!!」
こんなにもジェルマン副団長が怒りをあらわにするなんて、相当ショックだったんだろうな。
わかるよ、俺もあなたの立場ならそう思う。
でも。
「世の中には知らないほうがいいことがあるという言葉ある」
「話が通じないらしいな。ならば、私が用いるすべてを使った殲滅魔法で…………」
その瞬間、ジェルマン副団長の視界からウルが消えた。
「なぁ!いったいどこへ行った!!」
「後ろだよ」
「んっ!?」
後ろを振り返れば、ウル・アルバゼルの後ろ姿があった。
「どうやって…………」
「これで終わりです、ジェルマン副団長…………」
すると、静止してた時間が突然、動き出した。
時間が動き出すことで超越魔法フォール・エクスプレスが起動し、その真下にいたジェルマン副団長を上から叩き潰した。
「ジェルマン副団長は俺が移動したように見えたのかもしれないけど、それは違う。正確に言えば、俺とジェルマン副団長の位置が入れ替わっていたんだ」
これが、相手の座標と自身の座標を入れ替える座標魔法だ。
ただ点と点を移動させるだけのシンプルな魔法だが、その構造は複雑で魔法師の中でも使えるものは少ない。
「冷静ないつものジェルマン副団長だったら、気づいていたかもしれないけど、冷静をかいたあなたは気づかなかった」
超越魔法フォール・エクスプレスによって押しつぶされたジェルマン副団長だったが、あちこち関節がねじ曲がっているもののかすかに息があった。
「あれれ?生きてる。死んだと思ったのに…………」
突然、現れたシルに驚くこともなく平然と答える。
「きっと、ジェルマン副団長は俺を殺す気なんて元からなかったんだと思う」
「どうして?あんなに殺意まみれていたのに、変なの」
「…………さぁな、今の俺にはもう関係のないことだよ」
もう深く考えるのはやめよう。
だって、何をしたって何も変わらないんだから。
「もうここに用はない。行こう、シル」
「そうだね。レッツ!国外逃亡っ!!」
こうして、俺とシルは国外に脱出することに成功した。
そしてアンリーゼ王国内では歴史上最悪の事件として取り上げられ、殺人鬼ウル・アルバゼルとして指名手配されることになる。
宮廷騎士団はこれを機に衰退していくが、それはまた別のお話。
□■□
「やっと、見つけたね」
「ああ、長かった」
国外逃亡して1ヶ月、ついに俺たちは悪魔の情報を入手することに成功した。
どうやら、アルフレット帝国の近くで魔物大量発生が起きているらしく、その原因が悪魔の仕業だという。
「楽しみだね、アルフレット帝国…………おいしい食べ物たくさん食べようね」
「遊びに行くわけじゃないんだが」
「遊びも復讐も同時並行だよ。さぁ、行こうっ!アルフレット帝国へっ!!」
っと馬車内で人差し指をアルフレット帝国がある方向へ向ける。
「恥ずかしいから、おとなしくしてくれ」
だが、内心かなりうれしかったりする。
この1か月、
「ってうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
すると、シルが馬車内で滑り落ち、振り落とされそうになるが、咄嗟にひもをつかみ何とか踏みとどまる。
「うぎゃぁぁぁぁぁ助けて~~~~~」
「…………しばらく、そうしてろ」
「えぇ!?ひどくないっ!!助けてよ~~~ウルくんっ!!!!!!!」
その光景を馬車を引く人がほほ笑むのであった。
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