第9話 宮廷騎士団、副団長ジェルマン
時間が動き出すと、騎士たちや民衆たちが何もなかったかのように動き出した。
そして、すぐに民衆の叫び声が鳴り響く。
すぐに騎士たちは気づき、俺の前に立ちはだかった。
「これはどういうことだっ!一体、何をしたっ!!」
それもそのはずだ。
この場には、俺とシル、そして横で横たわっているガレウス団長の死体があるのだから。
「宮廷騎士ウルっ!お前がやったのかっ!!」
俺は騎士たち囲まれ、その場で
この現状、騎士たちは何が起こったのか理解していないはずだ。
故に一番怪しいのは間違いなくこの俺、ウル・アルバゼルただ一人。
「想像にお任せするよ」
俺は一番曖昧な言葉を返した。
これで、騎士たちは想像するはずだ。妄想するはずだ。一番、理にかなった真実に捏造するはずだ。
そうすることで、俺はお前たちの敵になる。
「一部のものは宮廷騎士団を呼べっ!残ったものは宮廷騎士ウルを逃げないようにかこめっ!!それと報告部隊はこう伝えるんだ『宮廷騎士団、団長がウル・アルバゼルに殺された』とっ!!」
指揮を執る騎士が、一斉に命令を下した。
その姿は立派な騎士そのもので、逃げ惑う民衆たちが歓喜の声を上げる。
がんばれっ!あんなやつ倒しちゃぇっ!っとまるで英雄のように立ちはだかる騎士を持ち上げた。
「宮廷騎士ウルっ!おとなしく、つかまるんだっ!!」
怒りの感情がじかに伝わってくる。
どうやら、あの騎士はただものではないらしいな。
瞬時の判断と、最適の解を導く頭の回転の速さ、指揮官としてなら宮廷騎士並みかもしれない。
「お前たちごときが俺を止める?不可能だ。おとなしく道を開けろ。俺は追わなければならないんだ」
「黙れっ!恩知らずが、お前のことは俺たち騎士の誇りだったというのに、ガレウス団長を殺した罪、しっかりと牢獄で、いや死で償ってもらうぞっ!!」
「そうか、残念だ」
悲しい、俺は悲しい。
だって、俺を邪魔するってことだろ?道を開けないってことだろ?
なら、殺さないと。
「最後の警告だ。道を開けろ、さもなくば、殺すぞ」
「んっ!?お、怯えるなっ!全員っ!かかれっ!!!」
一人の勇敢な騎士の掛け声と一緒に囲んだ騎士たちが一斉に攻撃を仕掛けた。
「…………遅いな」
俺が灰色の魔女と契約したことで得た力は全部で三つだ。
一つ目は千里眼。
あらゆるものを見通すこの瞳は少し先の未来を見通す。
故にお前たちの敵ではない。
素早い斬撃が襲い掛かる騎士たちを一瞬で切り裂き、鈍い音が鳴り響く。
「なぁ!?一体何が!!」
民衆の叫び声、逃げ惑う騎士たち。
「殺すとは言ったがあれは噓だ。全員気絶しているだけ、あと残っているのはお前だけだな」
「いや、まだほかにも騎士がっ!!」
っと後ろを振り返ると、騎士たちが怯える表情を浮かべていた。
「お前たち、一体…………」
それもそのはずだ。
圧倒的力の前に、無力な騎士が勝てるはずがない。
そのことを彼らは潜在的に理解してしまったんだ。
「くぅ、俺は屈しないぞっ!必ずやウル、お前はしかるべき罰が下るだろうっ!!」
「そうか」
剣の根本を首元に強く打ち付け、騎士は気絶した。
その時、民衆たちは逃げまどい、騎士たちも情けない声を上げた逃げ出した。
「殺さないんだね」
「…………殺そうと思ったさ。でも、こいつらは俺の復讐とは関係ない」
「優しいね。でもその感情が復讐を邪魔しなきゃいいけど」
「黙れ、シル」
「きゃぁ!?怖いなぁ~~こんなにかわいい女の子に黙れなんて」
「いくぞ、シル」
「うんっ!」
今から始まるんだ、俺の復讐の物語が。
□■□
俺たちは今、アンリーゼ王国の北側へと向かっていた。
「どうして北側なの?」
「父上が連行される場所が決まっている。アンリーゼ王国の北側にあるアルテ収容所だ」
とはいえ、サタンが大人しく連行されているとは思えない。
サタンが何かする前にたどり着ければいいが。
しばらく、走っているとアルテ収容所が姿を現した。
「ここだ」
「へぇ、結構大きいだね」
「ああ、ここには多くの人間が収容されているからな」
「ふ~ん、それじゃあ、私は見てるから。復讐がんばってね、応援しているよ」
そう言って徐々に透明になっていき姿を消した。
全く気配すら感じられない。
これが姿を消す魔法が透明魔法か。存在することは知っていたが、まさかこの目で見られるなんて。
「ふん、応援なて求めてないが、まぁいい」
俺はアルテ収容所の入り口付近まで近づくと、本来いるはずの門番が誰一人いなかった。
「すでに遅かったか」
すぐさまアルテ収容所内に侵入し、周りを徘徊するも人影一つない。
最後にアルテ収容所の中央広場に見に行くと、そこには見たことがある死体の山が積みあがっていた。
「やはり、すでに逃亡していたか、ちっ」
予想はしていた。
悪魔の王サタンが連行されたままでいるはずがない。
これで、サタンを見つけるのは困難になった。
でも、必ず見つけ出す。地の果てまで追いかけて、その首を必ず切り裂いて殺してやる。
「仕方がない」
ひとまず、ここから離れよう。
おそらく、あと数日もしないうちに俺は指名手配されるはずだ。
その前には国外に逃亡しなければ、後々面倒なことになる。
と思ったその時だった。
上から何かが落ちてきた。
たち煙で視界が遮られるが、人影はしっかりと見える。
「まさか、ウル。君がこんな残虐なことをするとはね」
「…………ジェルマン副団長」
上から落ちてきたのは、メガネをクイっとしている宮廷騎士団、副団長のジェルマン・ネルローだった。
「実に残念だ。君とは良き友になれると思ったのに」
まさか、宮廷騎士でジェルマンを向かせるなんてな。
「大人しく、捕まりなさい。じゃないと、私が怒りの衝動で君のことを殺しそうだ」
メガネをくいっとさせながら怒りをあらわにするジェルマンさんの姿。
にじみ出る魔力と圧迫感は凄まじいものだった。
「それは無理な頼みです、ジェルマン副団長」
「そうですか、なら団長の
5っの魔法陣が展開され、急激なエネルギーを生み出し、俺に向けて容赦なく放った。
「ふん、身の程を知れ…………うん?」
純粋なエネルギーの塊を放つ放射魔法は強力だ。
だが、今の俺には千里眼がある。放射される位置、タイミングを知ることができる俺にとっては脅威にすらならない。
「この程度じゃ、俺を殺せない」
「なるほど、よけました。なら、少しは全力を出せそうだ」
やはり、ジェルマン副団長はまだ本気ではなかった。
だが、それはこっちも同じだ。
「ウル、君と殺しあうとは思いもしなかったよ」
「…………そうですね」
「どうやら、反省の色はないようだね。おかげでこの怒りに身を任せることができるよっ!!」
ジェルマン副団長の後ろに大きな魔方陣が展開された。
「…………相手にとって不足なし」
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