第7話 悪魔の王サタンへの怒り

 何も考えず、俺は怒りの衝動に任せて悪魔の王に剣をふるった。


 凄まじい剣捌きは周りの建物ごと切り刻んだ。だが、悪魔の王には一切当たらない。


 見えない壁が悪魔の王を守っている。


「無駄ですよ、君の攻撃は一切届かない」


「だまれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」


 六つの精霊王の加護が宿った剣は閃光の光を放った。


「これは、なんですか?」


「しねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」


 剣撃はさらに早くなる。


 だが見えない壁がウルの剣を防ぐ。


 何度も何度も何度も、本気で剣をふるった。


 なのに、目の前にいる敵を切る刻むことができない。


「だから、無駄だといったでしょ」


 殺す、こいつだけは必ず殺す。


 父上を殺し、最愛の大切なアリシャを殺したお前だけはどんな犠牲を払ってでも…………。


 


 その瞬間、見えない壁に亀裂が入った。


「これは、どうなっているのですか!?」


 動揺を見せる悪魔の王サタンの姿。


 そして、ウルの凄まじい剣撃が見えない壁を切り裂いた。


「あ、ありえないっ!この壁は彼女以外に破れるはずがないっ!!」


 焦りを見せる悪魔の王サタンだが、そんなことも眼中になく、サタンをとらえ、剣をふるう。


 すべてを絞り出せ。あいつを殺す最大の一撃を繰り出すんだ。


 さらに閃光の光が神々しく輝きだした。


「くぅ、なめるなよ、人間がぁぁぁぁぁ!!」


 悪魔の王サタンは左手で影の刃を作り出し、俺に向けて振りかざしたが、それよりも早く俺が剣をふるった。


「くぅ!?ありえん、人間ごときが俺に傷をつけただとっ!?」


 宙を飛ぶ悪魔の王サタンの左手。


 俺は悪魔の王サタンの左手を切り飛ばしたのだ。


 外した、胴体を狙ったはずなのに。


 だが、次は外さない。


 悪魔の王サタンは思う。


 やはり、一番の障害はウル・アルバゼルだったと。


 精霊に愛され、六つの精霊王と契約した化け物。


 やはり、情報に偽りなどなかった。


 悪魔は笑った。


 その行動に俺は疑問に思った。


 なぜ、そこで笑う?と。


 そして、悪魔の王サタンは口を開いた。


「あはははははははっ!やはり、一番の障害はウル・アルバゼルだったかっ!私の予想が当たってよかったよ」


「どういうことだ」


「…………なぜ、この場所を選んだか、わかるか?」


 俺は黙った。


「ふん、それはなぁ、お前は消すためだよっ!!!」


 指を鳴らした。


 すると、結界が解かれ、民衆にその場がさらけ出された。


「これはいったい?」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「んっ!?」


「なぜだ、なぜ父に攻撃するんだっ!ウルっ!!」


「ま、まさかっ!?」


 その瞬間、嫌な予感がした。


「助けてくれ、助けてくれっ!!!!」


 いつの間にか右手に心臓はなく、アリシャの死体もない。


 これではまるで、まるで、まるで。


 周りから聞こえる民衆の叫び声、そしてたくさんの騎士たちが押し寄せてくる音が聞こえてくる。


はかったな」


 一瞬、頭が冷静になった。


 最初っから、あの悪魔の王サタンは俺を陥れるためにこの場所に呼んだのか。


「一体何事だっ!!」


「が、ガレウス団長!?」


 どうして、ガレウス団長がここに?


 ガレウス団長は宮廷騎士団の団長だ。そう簡単に現場に出られる人物じゃないはずだ。


「ウル?これは一体どういうことだ」


「…………ん」


 どうする、説明するか?でも、この状況、明らかに俺のほうが立場が悪い。


「ガレウス団長、どうやら、宮廷騎士ウルが父親のバゼル・アルバゼルに攻撃を加えたとのことです」


「…………それは本当なのか、ウル?」


 それは事実だ。だが、あいつは父上じゃないんだ。父上の皮をかぶった悪魔の王サタンなんだ。


 ふと、連行される悪魔の王サタンが視界に入る。


 すると、あいつはニヤリと笑った。


 その瞬間、プツンっと糸が切れるような音がした。


「お前だけはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 俺は悪魔の王サタンにむかって走り出した。


 ここでお前を生かすぐらいなら、どんな汚名でも背負ってやる。


 だから、だから、だからっ!!


 ここで必ず、殺す。


 悪魔の王サタンに向かって走り出したウルだが、突如、真上から押されるような感覚に襲われ、その場で足を止めた。


「何をする気だ、ウルっ!!」


 ガレウス団長の重力魔法だ。


 抵抗すればするほどかかる重力が増大する絶対的拘束力がある魔法に抗うのはほぼ不可能だ。


 でも、それでも…………。


「邪魔をしないでください、ガレウス団長」


 俺は一歩ずつ、前を歩く。


「あいつだけは、家族を殺したあいつだけはっ!!!」


「落ち着け、ウルっ!無理に動けば、四肢がもがれるぞっ!!」


 ここであいつを殺さなくちゃ、この怒りが収まらない。


 殺す、悪魔の王サタンは絶対に、この手で…………俺が殺す。


「くぅ、頭に血が上ってやがるな。おとなしく寝ていろっ!!」


 急激にかかる重力に俺は押しつぶされた。


「くはぁっ!!」


「ここまでウルが感情をあらわにするとは、一体、二人の間に何があったんだ」


「ガレウス団長っ!バゼル・アルバゼルの連行が終わりました」


「そうか、ならこいつは俺が連れていく。あとの対応は任せた」


「はっ!!」


 ガレウス団長はウルを連れて行こうとすると、鐘の音が鳴り響く。


「なんだ、この音は?」


 ガレウス団長が周りを見渡すと、自分以外がまるで時間が止まったかのように静止していた。


「これは何が起きて」


「へぇ、動けるんだ」


「んっ!?」


 真横に灰色の髪色をした女性が立っていた。


「君には用がないんだけど、興味深い。何か秘密でもあるのかな?」


「き、貴様がやったのか!!」


 背筋に電撃が走った。


 こいつ、ただものじゃない。


 見た目は普通の女の子だが、見た目では隠し切れない何かが彼女にはある。


「ふん、まぁ考えても答えは出ないよね。というわけで、


 彼女と目が合った。


 そして、気がつけば、地面を見つめていた。


「せめてもの計らいです。おやすみ、見知らぬ騎士」


 最後に見たのはこの世のものとは思えない狂気の笑みだった。

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