第4話 宮廷騎士の朝は早い

 朝は早い。


 宮廷騎士になれば、朝から訓練があり、それを終えてから任務を遂行する。


 俺は朝早くから起き、朝食を済ませ、玄関の前に立った。


「それじゃあ、行ってきます」


「いってらっしゃいませ、ウル様」


「クリリカさんもアリシャのこと頼みますよ」


 王城に到着し、宮廷騎士団専用の訓練場に出向くと、団長の他に二名の先輩宮廷騎士がいた。


「おっ、おはようっ!後輩っ!」


「おはようございます、ウル」


「お二人ともおはようございます」


 後輩呼びする人は、宮廷騎士の中で一番弓がうまい、ミナ・シティー。弓の実力だけなら宮廷騎士団の中で一番。もちろん、剣なども使えるが、基本的には弓を使う弓兵だ。


 隣の人は、アルミス・サウザンド。人柄がよくとてもやさしく戦場に出れば、頼りになる槍使い。


 宮廷騎士団にいると錯覚しがちだが、二人とも世界でも数えるほどしかない屈指の実力者であることは間違いない。


「珍しく、早いですね、お二人とも」


「おいおい、それはどういうこったぁ?なめてんのか、おい」


「ミナ、あまりウルをいじめないの。いくら、昨日、魔物の討伐数が一番低かったからと言って」


「ちょっと!?アルミス、それは言わない約束のはず…………」


「ミナさん、一番低かったんですか?」


「なぁ!?…………しょうがないだろ!私は弓兵だ。倒せる数にも限りるがあるわけだし、矢の管理だってしないといけないんだっ!」


「まぁ、言い訳はその程度にして」


「言い訳じゃないんだけどっ!!ちゃんとした理由なんだけど!!」


「ウル、団長にあいさつしに行ったら?」


「そうですね」


 ガレウス団長は誰よりも早く訓練場に出向き、ひたすら素振りをしている。これが日課らしい。


「おはようございます、ガレウス団長」


「ふぅ…………うん?ああ、ウルか、おはよう」


「朝からよく素振りしようと思いますね」


「基礎は騎士にとって欠かせないからな。ウルもどうだ?」


「やめときます。汗かきたくないので」


「そ、そうか。相変わらず、淡白な奴だな。そうだ、ウルに一つ聞きたいことがあるんだ」


「なんですか?」


「お前、今日の遂行する任務の確認したか?」


「…………いえ、してませんけど」


 平然と答えるウルにガレウス団長は頭を抱えた。


 今そんな態勢をとったら、疲れるのに、どうしたんだろう?


 ガレウス団長の動きに首をかしげた。


「ウル…………」


「はい」


「さっさと、確認してこいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 その雄たけびは訓練場を通り越し、響き渡った。


「近所迷惑です」


「さっさと、確認していこい」


「わ、わかりました」


 俺はガレウス団長に言われるがまま、今日の任務を確認しに向かった。


「はぁ、変なところで気が抜けてるんだよな、ウルは」


「かわいいじゃないですか、団長」


「アルミス、あれのどこがかわいいんだ?」


「ふふふ、見てわからないんですか?」


「わからんっ!!まぁ任務の確認はまぁいい。だがウルはいずれこの宮廷騎士団の団長になるかもしれないんだ。最初っから甘えさせたらそれが癖になっちまう。それだけはあってはならん」


「…………でも、ガレウス団長も昔は全然確認していなかったじゃないですか?」


「ごほんっ!それ、それっ!!これはこれだっ!!」


「本当に似た者同士ってこういうものをいうんですね」


「…………俺は素振りに戻る」


「なに話してるんだ?」


「ただの世間話ですよ。私たちも訓練に戻りましょう」


「よしっ!じゃあ、アルミス、私と模擬戦だぁ!!」


「ミナには負けませんよ」


□■□


 なぜか、ガレウス団長に怒られてしまった。


 任務の確認なんて、わざわざ朝からやる必要があるのか?まぁ、言われないと確認しないだけどさ。


 王城内を歩いていると、後ろから突然、わーっ!と一緒に抱き着かれる。


「だぁ~~れだ!!」


 この柔らかな大きな胸の感触、そしてトーンの高い声色。


「エルザさん」


「せいか~~~い!よくわかってるね、ウルくん」


 深紅に燃える赤髪が特徴のエルザ・ティナーゼ。三大貴族の一つ、ティナーゼ家の長女で、主に格闘技で戦う宮廷騎士。


 実績も数多く残していて、宮廷騎士団の副団長候補の一人だ。


「あの、いちいち後ろから抱き着かないでもらます?」


「なんで?こんなにも美人な私に抱き着かれて、うれしくないの?」


「いや、美人だとは思いますけど、僕はうれしくないです」


「それじゃあ、最愛の妹のアリシャちゃんに抱き着かれたら?」


「超うれしいですっ!」


「うわぁぁ………やっぱり、ブラコンなんだね」


「否定しません。それで、何の用なんですか?」


「特にないよ。話しかけてだけ。それじゃあ、訓練場でね、ばいば~~~~い!!」


「本当に不思議な人だ。って俺も早く確認しないと」


 宮廷騎士団には宮廷騎士団専用の部屋が用意されている。


 その部屋の中では12名の名前が書かれた机が置かれており、そこで任務が確認できるようになっている。


 自分の名前の場所で任務を確認すると、1日中、王城内の見回りらしい。


 ラッキー、今日は楽だな。


 俺はまだ宮廷騎士として半人前、まともな任務をやるときは基本、先輩と一緒のことがほとんどだ。


 急ぎ足で訓練場に戻ると宮廷騎士団員全員が集まっていた。


「ぎりぎりだったな、ウル」


「すいません」


「いいから、早く定位置につけ」


「はい」


 訓練を終えると、宮廷騎士団員全員が集まり、騎士の心得を説く。と言っても、基本的には騎士としての心構えなどを団長が口に出して言うだけ。


 周りの宮廷騎士団員も眠そうにしている。


「よし、それではみな、任務につけっ!!」


「「「はいっ!!!」」」


 やっと終わった。


 こんな時間があったら訓練したほうがいいんじゃないかって思う。


 けど、そんなことを口にしたらガレウス団長にまた怒られる。


「ウル、ちょっとこい」


「なんですか?」


「そんないやそうな顔をするな。むしろ、ウルにとっていい連絡だぞ」


「いい連絡?」


「ああ、今日の任務なんだが、早く帰っていいぞ」


「え…………」


「お前がほとんどのお金を妹に使っているのは知っている。ここ最近、忙しかったからな、たまには妹と遊んで来い。とは言え、夕方まではしっかり任務を遂行しろよ」


「はいっ!全力でやらせていただきます、ではっ!」


 速足はやあしで任務地に向かう。


 まさか、早く帰れるなんて、帰りにでもアリシャに何かおいしい食べ物でも買って帰ろうかな。


 ルンルンにステップして向かうウルの姿に周りは変な目を向けた。

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