第28話
と、陣営の思惑など知ったことではなく、目の前のピアノを最高の状態にすることだけをサロメは考える。ピアノの屋根と鍵盤蓋を開け、スイスイっと引き出すと、アクション付近のスプリングをいじる。
《こんな感じですかね!》
《え、今のでいいの? なんか鍵盤とかパーツとか引き出してやったりとか》
本来ならスプリングは鍵盤を叩き、そのハンマーの持ち上がりを見ながら行うのだが、サロメは感覚でわかる。なのでヒョイっとタコ焼きをひっくり返すように調整。
そしてこちらも本来であれば、引き出したアクションを戻してから調整するレギュレティングボタンも、ついでに一緒に調整。どれがどのくらいダメだったか、それも八八鍵把握している。
《はい! ハンマーの間隔は、スクリューのついた工具でレギュレティングボタンというのを回すだけですし、スプリングも少し負荷を変えてあげるだけなんで! 頑張りました!》
「アクション奥のスプリングとレギュレティングボタンを、あのスピードでいじれる調律師って何人いますかね」
少し悔しそうにランベールは今の整調を分析する。淀みなく、迷いなく、止まることなく。自然な流れで負荷を変える。
「見たことはないね」
「僕には無理! というか引き出したままレペティションスプリングはいじれないよぉ。完全に時短でやってる」
技術としては物凄いことなのだが、なにせ彼女はお騒がせ少女なもので、さらになにかやりだすのではとロジェはストレスでお腹が痛くなってくる。自分で依頼しておいて勝手ではあるが、早く帰ってきてほしい。
「コメントでも気づいてる人いないみたいですね。今やってることがどんだけすごいことなのかを」
「まぁ、気付けるのは調律師だけだろう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます