第8話
オレンジ色のバラの花弁を右手でなぞるように触れると、シャルルは柔和な目をベルに向ける。
「人間とは、躊躇いがちな生き物です。自分の選んだ道はこれで正しいのか、もしかしてあの時こうしていればもっといい結果に、そんなことを何度も何度も繰り返し生きていく」
「なにが正しいのか、そんなもの誰にもわからん。そもそも正しい、間違った道なんてあるのかすらな」
「その手探りで進む道。たまに立ち止まってしまう時があります。そんな時にその疲れた背中を優しく押す、それが我々フローリストなんです」
「背中を、押す……」
自分の見解を徐々に広げる二人の理。空洞のように感じていた胸が熱くなる。そして、暖かく柔らかい、日に干した布団に包まるような、そんな優しさを持ち合わせていた。熱く滾る胸が、次いで締め付けられる。
「躊躇うことが悪いわけではありません。むしろ躊躇うからこそ、成長していく過程が築かれるんです。ですが、結局のところはその方自身が乗り越えなければならない壁です。フローリストができることは、ほんの少しのことなんです」
すかさずシャルルが補足のフォローを入れると、纏めた疑問を一つずつベルは口にしていく。優先順位をつけ、段階を踏んで理解を深めていくのは、ピアノで散々やったことであった。わからないことをわからないままにしておける性分ではないのである。しかし回りくどい道を選ぶのは苦手であり、ストレートにまず自分の苦痛を吐露した。
「……じゃあもし、その背中が一○年以上ピアノを続けてたのに挫折した、自分より背が高くて年も上の女性のでも……それでも押せる?」
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