第13話 それは予期せず起こる

 ◇

 あの日、俺はいつものように一人リビングで本を読んでいた。この時間はいつも無音で読書している。日課の様なルーティンだった。


 女々しいと思うかもしれないが、隣に住んでいる箏羽を感じたかったのだ。

 筝羽の存在が傍にある。些細な音でも俺にとっては〝宝物〟だった。


 ──……もうストーカーの領域かもだな。


 どれだけ変態だと言われても、それだけは譲れなかった。

 むっつりだと言われようが、何だろうか俺はこれでよかった。

 そのうちきっと筝羽はまた俺のところへ戻ってきてくれる。そう信じていた。


 でもその日は違っていた。

 確かに筝羽の家から聞こえたのは『悲鳴』だった。


 最初は〝錯覚〟なのかと思った。きっとゴキブリか何かが出て大騒ぎしているのだと楽観視していたのだ。

 しかし、そんな〝可愛い音〟ではなかった。


 ──……ドンッ!

 と鈍い音がしたときに、俺の中で恐ろしい警告音が鳴っていた。

〝なんだ……これ!?〟


 俺は失くさないように置いていたスペアキーを無意識に手にすると、自分の家の玄関から靴も履かずに飛び出していた。


 箏羽の家の鍵穴に鍵を挿そうとするが、なぜか動悸がして手が震えて上手く入らない。


 鍵が開いたのと、室内からガラスが割れる音がしたのは同時だ。

「箏羽っ!!」


 真っ暗な室内。

 荒らされた室内が、月明かりに照らされていた。

 箏羽はその部屋の真ん中で横たわっていた。


 全身から冷や汗が噴き出す。この状況が何を意味しているか、容易に想像はできる。

 最悪の事態だけは避けてくれっ!!


 俺は無我夢中で駆け寄って箏羽の名前を呼んでいた。


 箏羽

 箏羽

 箏羽

 箏羽


 目を覚ましてくれ!

 お願いだ、もう何も望まない!

 箏羽を奪わないでくれ!


 薄っすらと目を開けた箏羽の瞳を見た時、俺は箏羽を強く抱きしめていた。

 無神論者なのに、その時だけは神に感謝する。


 ──……生きていた!!。


 それだけで、もう十分だった。

 しかしそれと同時に俺は箏羽に伝えなければならない。〝真実〟を目の当たりにした。

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