第一章 永久聖竜の憩いの場

01話 目覚め

 風が吹いていた。

 

 さわさわと、心地よい音が体を包む。爽やかな緑の香りが鼻腔をくすぐり、このまま眠り続けてしまいたいと自分の本能が訴えかける。


 だが、起きなければならない。強い理性と意識を保ち重たい瞼をゆっくりと開けた。


 そして、冷静に周囲を見渡せば草木が乱立している森の中といった感じだ。

 

 だが、それよりも何かがおかしい。


 声が出ない。

 

「に、にゃあー!」

 

 いや出そうと思えば出せるが猫の鳴き声のようなものしか出せない。


 そして、視線がやたらと低い気がする。

 

 そこでふと足元をみると毛で覆われた両足があった。


 いやいやありえない。流石の爺さんもそこまでボケてはいないだろう。だって宇宙の管理者だよ?「人の子よ」ってちゃんと俺が人間だったことは理解していたはず。


 そうだ!少し毛深いだけの赤ん坊に違いない。


『どうやら転生には成功したようですね』


 突然、俺の脳裏に声が響いた。


 だ、だれだ!?


『私は、主人様のユニークスキルであるナビゲーターです。主人様の生存率向上のサポートをさせていただきます』


 おおー!心強い!サポートって具体的にどんなことをしてくれるんだ?


『私の能力は、助言、地形把握及び道案内、敵感知、殺気感知、スキル感知把握、強者把握です。ですが、私の知識はこの世界での一般常識のみでしてより詳しい情報は持ち合わせておりません。』


 なるほど、それじゃあ、まずは自分の姿を確認できる場所とかある?


『現在地から東へ150メートル先に小さな泉がありますね。ですがお気おつけください。ここは[永久聖竜の憩いの場]と言われる未踏破ダンジョンですから』


 え?ここダンジョンだったの?


『正確に言えば第一階層[獣の巣]と言われる場所ですね』


 まぁ安全第一に向かうとするかな。

 




 はぁはぁ……やっと着いた。小柄だからかやけに遠く感じたわ。


 俺は湖に近づき恐る恐る水面を覗いた。そこに映ったのはやはり毛むくじゃらな赤ん坊ではなく完全なるキャットフェイスだった。


 アメジストの瞳に額には丸く淡いオレンジ色の石が付いている。体は金色の毛に覆われ耳は兎のように長い。

見た目はもはやサイベリアン・フォレスト・キャットのようだが、尻尾が二つ付いている。


 悲報、俺は人間を辞めたらしい。ぐすん


『あ、主人様はとてもキュートですよ』


 俺、男だし……


『り、凛々しくもあるかな〜うん』


 言っていることが薄っぺらいぞ。


『と、取り敢えず現状を整理しましょう。今の主人様は混乱しているようですから』


 そうだな、ちなみに俺は何に転生したんだ?何処かで見たことがあるような気はするんだけど思い出せない。


『であれば、自分自身に鑑定を発動してください』


 鑑定?


 どうやれば?と聞こうとしたら突然目の前に透明なボードが出て来た。



名前: 【セナ】

種族: 【宝石獣カーバンクル

称号: 【転生者】 

魔力階梯:【第一階梯】

闘力色:【黒】

深淵スキル:

ユニークスキル: 【ナビゲーター】 【鑑定眼】 【石喰い】

スキル: 【噛みつき】

統合スキル:

ギフト:【スキル統合】

魔法適正: 【光】


 なんか出た。


『これは主人様の現時点のステータスです。ちなみにスキルは自らの意思で発動できます。私の場合は自立型ユニークスキルですので主人様の意思とは関係なく発動することが可能です』


 なるほど。何処かで見たことがあると思ったらカーバンクルか。


 それよりもステータスについて教えてほしいな。


『了解しました。であれば上から順にご説明致しますね。名前、種族、称号に関してはそのままの意味ですので省かせていただきます。まず魔力階梯とは魔力の大きさを表し全部で第八階梯まで存在します。第一階梯だとほぼ魔力がないと判断され第八階梯だと国を一つ滅ぼせるほどの禁忌魔法を行使することが出来ます。階梯が上がるごとに魔力は5倍になると考えても良いでしょう』

 

 俺は第一階梯だから魔力がほぼないのか。やばい異世界へ来たのに魔法が使えないんだなんて!

 

『魔力量は魔力を消費し続けることで増えますのでまだ希望はあります。ですが魔法を行使するにあたって魔力感知のスキルを会得しなければなりません。一般的には外部からの干渉を得て会得が可能です』

 

 良かった〜せっかく異世界に来たんだから魔法は使ってみたい。

 

『次に、闘力色とは闘力の練度について表しています。色には黒紫青緑黄白金の七色あり淡ければ淡いほど洗練されていると言われています。主に身体の強化度合いを引き上げる技術です」


 くっ!闘力色が黒だから一番下か。待ってこの状況って一番まずいんじゃない。

 激弱じゃん俺。


『鍛えるにはまず自分自身の生命エネルギーの把握から始めなければなりません。一般的なのは誰かに師事をする事で外部からの干渉を得て生命エネルギーを把握することです。ですので主人様はいずれは誰かに師事することをお勧めします』


 此処はダンジョンだからしばらくはないな。


『次に、深淵スキルとは魂と肉体の同調率が100パーセントに達した時に習得する魂の奥底に刻まれたスキルです。主に感情の起伏により発現する者が多くこの世界の実力者は皆発現しています。能力に同じものは存在せずどのスキルよりも強力で一生発現できない者もいます。深淵スキルは魂を持つものならば誰にでも発現できる可能性を持っており、発現した者は皆覚醒者という称号を持っています。発現中は魂輝と言われる白銀のオーラを纏い魂輝が大きければ大きいほど強力な深淵スキルであるとわかります。そして魂輝は後天的に増えることはありません』


 覚醒者か、俺にもその可能性があるって事だな?

 ク○○ンのことかー!!

 流石に無理か。


『最後にユニークスキルとスキル及びギフトについて説明します。スキル、は後天的に会得可能ですが、ユニークスキルとギフトについては先天性スキルとなっておりますので今後の取得は不可能となっております。ちなみに魔法適正も今後変わることも増えることもありません』


 深淵スキルは先天性か?それとも後天性に分類されるのだろうか?いや、魂に刻まれているから先天性になるのかな?


『主人様が保有しているユニークスキルについてですが【ナビゲーター】と【鑑定眼】については省略させていただきます。残りの【石食い】と言われるユニークスキルは鉱石や魔石を体内に取り込むことによってその石の特性や能力を得ることができます。魔石とは全生命体の体内に存在し自らの生体情報が内包されている石です。つまり魔石を食べることで魔石に内包している生体情報からスキルを会得することができます。ただし、一つの魔石から取得できるスキルは一つから二つまでで、一度取得したスキルは今後取得できません。深淵スキルとユニークスキルに関しては会得不可です』


 あれ?これってチートじゃね?あ!そういえば俺って糞雑魚やん。魔石を食べるには魔獣を倒さなければいけないんだよな?幸先が不安なんだけど。


『ギフトとはアドミニストレータから与えられた能力のことを意味し、一人につき一つ所有しています。【スキル統合】については文字通りスキルを統合することができ、統合したスキルは皆一様に強力なスキルとなって生まれます』


 石喰いで得たスキルを統合しろって言ってるんだな?


『あくまで一般常識についてでしか説明することができず申し訳ございません』


 いやすごく助かるよ!ある程度知識がなきゃこの先は生き残れないしね。

 流石は、ナビゲーターさんだよ。


『(⸝⸝⸝´꒳`⸝⸝⸝)テレッ』


 喜んでるのか?意外にナビゲーターさんは人間味があるらしい。


 取り敢えず、ダンジョンから出たいんだけどどうすれば良い?


『ダンジョンを攻略する他ありません』


 まじで、第一階層だからすぐに出れるものかと思ったよ。


『ダンジョンは皆一方通行であり攻略にあたって必ずリターンと言われる魔道具を装備しなければ帰れないのです。主人様の場合このダンジョン内で転生したため攻略のほか道はありません』


 いやなんでダンジョンなんかで転生させたんだよ?


『久々の生命想像に張り切ってしまったアドミニストレータ様は場所を確認せずうっかりダンジョン内で転生を行なってしまったのではないかと。又は、このダンジョンは魔素濃度がかなり高く転生場所には最適な場所だったからという理由も考えられます』


 どうやら、あの爺さんは一度しばかなければいけないらしい。すぐに死んじゃ転生した意味ないじゃん。


 攻略しなきゃいけないのか。


 この未踏破ダンジョンを。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る