第120話 損な性格

 準決勝直前。

 花道へ向かう通路で出番を待つミナミ。


 会場はセミセミメインで出場しているツツジの試合で大盛り上がり。

 大音響の歓声が通路にも漏れてくる。


 そんな中、後輩レスラーがタマちゃんを通路に連れてきた。


「あのねぇ、土曜日だってIBDは普通に仕事しているのよ?こんな時間に呼び出すなんて、ミナミくらいよ?」

「はいはい。アソんでるんだったっけ?」

「アソシエイトのアソよ。失礼ね。それにしても、間近でみるとなかなか引き締まった体つきしてるわね」

「エロい視線はやめてよね」


 タマちゃんはねっとりとミナミのコスチューム姿を眺める。


「寝不足って顔しているけど。でもスッキリした表情ね」

「うん、さっき、橋本君にごめんなさいしてきた」

「は!?」


 思いっきり呆れた顔。


「もう結論出したの?せっかちね。時間かけてって言ったじゃん。橋本君なら待ってくれるし、ミナミとはいい感じになると思ったのに……」


 ミナミは苦笑する。


「橋本君は真剣に向き合ってくれたから、私も真剣に向き合いたかったの。あっちだめならこっちみたいな保険かけるようなことはしたくないの」

「全く……M&Aやビジネスではリスクヘッジのためのオプションはたくさん持つことが必須なのよ?それを自ら捨てちゃうなんて……本当にミナミは損な性格よね」


 明らかに呆れている。


「損な性格は自覚するけど。でも恋愛とビジネスは切り分けるのがスマートでしょ?」

「それは確かに。言うわね、ミナミ」


 二人で笑い合う。


「二人の夢を壊しちゃったかもしれないけど、でもこれは私の夢でもあるんだもの。自信をもってやり遂げるわ」

「そうね」

「そしてね。これまで私はずっと大沢さんを信じてきた。その自分の気持ちを貫いてみる」

「状況証拠なんて100%じゃないもんね」

「ふふふ、こう思えたのはタマちゃんのおかげ」


 タマちゃんはミナミをぎゅっと抱きしめる。


「もしもボロボロになっちゃったら、また呼び出していいよ。本当は忙しいアソなんだけど、特別に慰めてあげる」

「ありがとう、持つべきものはタマちゃんね」


 腕の中で安らぎを感じるミナミ。

 タマちゃんは苦笑した。


(……ほんとは私も三角関係中なんですけど……色んな意味で鈍感で真っすぐなんだから、ミナミは……逆にうらやましいわね)


 そして、会場の歓声が一段と大きく広がり始める。

 ミナミの出番が近づいている証だった。

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