ご依頼品サンプル集
しらとり(くゆらせたまへ)
猫を見る君を見る
にゃあ、と猫の声がした。どこからしたのかと探しているうちに、クラスメイトは教室を出て行く。そろそろここも無人になるだろう。
今日も朝から夕方までカケルの世話を焼くカナタに、友人たちが手を振っている。「帰り道も気をつけてやれよ」
もちろん、とカナタが頷くので、カケルは「まだ明るいし大丈夫だよ」と苦笑する。
実際のところ、一人で帰る途中に不審者に連れ去られかねない程度には純粋なカケルであるので、友人たちの心配も必然だった。
けれど、カナタの中にある感情は、決して母親心だとか、いとこが心配だからだけではない。
当のカケルは、にゃあと鳴いた主を探り当て、帰りが遅れた犯人であるその黒猫を撫で繰り回している。
猫にだってもちろん嫉妬するけれど、猫を愛でるカナタの表情はきっと今この瞬間しか見られない。
猫を見るカケルを見るカナタ……の構図ができあがってしばらく、猫が耳をぴんと立たせて、早足で去っていく。方向は、もう使われていない旧校舎だ。
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