第11話(1)本丸付近での激戦
拾壱
「くっ……」
楽土が顔をしかめる。
「か、囲まれたよ!」
「それは分かっているさ……」
技師の言葉に藤花が応える。
「おい、おめえら……」
大樹が侍たちに語りかける。
「な、なんだ⁉」
「やっぱり下がっていろ……お前らじゃあ到底敵う相手じゃねえ……」
「だからそういうわけにも参らんのだ!」
「そうかい、大変だねえ、お侍さんってのは……」
侍の答えに大樹が苦笑する。
「やあ!」
「ふっ……!」
「!」
藤花に斬りかかった侍が刀を落とす。腕に針が刺さっていたからだ。
「えい!」
「はっ……!」
「‼」
藤花に斬りかかった別の侍が膝を抑えてうずくまる。膝に針が刺さっている。
「こ、これは……」
「髪に針を仕込んでいやがる。迂闊に飛び込めば針の餌食だぞ……」
大樹が冷静に見極める。
「ならば、集団でかかれ!」
「話を聞いてねえな……」
「行け!」
「うおおっ!」
「むん!」
「⁉」
十人の侍が一斉に斬りかかったが、藤花が十本の爪でそれをことごとく受け止める。
「楽土さん!」
藤花が声を上げてしゃがみ込む。
「はい!」
「どわあああっ⁉」
楽土が盾を振り回し、侍たちを吹き飛ばす。
「……ふん!」
「ぐっ……」
「お、おのれ……」
「だからお前らの手に負える相手じゃねえっての……」
大樹が呆れたように呟く。
「は、はい、そうですかというわけには参らんのだ!」
「どうしてだ?」
「ど、どうしてもなにも……ここがどこだか分かっているのか⁉」
「城」
「そ、そういうことではない!」
「じゃあなんだよ?」
大樹が首を傾げる。
「ほ、本丸付近だぞ! ここまで踏み込まれて、黙っていられるか!」
「藩の沽券に関わるってか?」
「そうだ!」
「はっ、くだらねえなあ……」
「なんだと⁉」
「あいつらのお目当てはおらなんだ。おらに任せておけば良いんだよ」
「……出来るのか?」
侍が大樹を見つめる。
「ああ、当然だ。喧嘩を売られたわけだからな。ただで済ますつもりは無えよ」
大樹が頷く。侍と大樹が見つめ合う。
「……」
「………」
「……分かった、貴様に任せよう」
「最初っからそうすりゃあ良いんだよ」
大樹が笑って、藤花たちの方に向き直る。藤花が身構える。
「むっ……」
「ああ、大事な確認だ……」
大樹が侍の方に振り向く。
「なんだ?」
侍が首を傾げる。
「別にぶっ壊しちまっても良いんだよな?」
「あの眼鏡の女は人だ……あやつ以外の二体は“ある程度は”破壊しても構わん」
「ある程度ね……」
大樹が笑みを浮かべ、斧を振りかざす。
「ま、まずいぞ、あの斧は⁉」
技師が慌てる。
「楽土さん‼」
「はい‼」
「ぬっ⁉」
楽土が猛然と走り、大樹に思い切りぶつかる。
「その程度の体当たりでどうにかなるか!」
「しかし、斧を振ることは出来ないはず!」
「くっ⁉」
「藤花さん!」
「ええ!」
「なっ⁉」
藤花の両手の手の甲から縄が飛び出る。飛び出た二本の縄が大樹の首に絡まる。
「おおっ⁉」
技師が驚きの声を上げる。
「首を捩じり切る!」
「ぐうっ……」
「む、むう……か、硬いわね……」
「あと一歩だった……な!」
「ぐはっ⁉」
大樹が強烈な膝蹴りを楽土のみぞおちに食らわせる。楽土の体がくの字に折れ曲がって、大樹から離れる。
「しゃらくせえ!」
大樹が斧を振るい、縄を切る。
「し、しまった⁉」
「お遊びはここまでだ……」
首に残った縄を投げ捨て、大樹が再び藤花たちに向き直る。藤花が叫ぶ。
「楽土さん、こちらへ! 技師さん、牛を走らせて!」
「ええっ⁉ ど、どこに⁉」
からくり牛に跨りながらも、技師は戸惑う。藤花と楽土もからくり牛に強引に跨る。
「向こうです! 行きますよ!」
「い、いや、こっちは⁉」
「それっ!」
藤花がからくり牛に塀を乗り越えさせる。その先は崖である。
「う、うわああああっ⁉」
技師の悲鳴が響く。
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