第7話(4)二体対二人

「! 新手か!」


 二人組は大柄な者と小柄な者である。


「あらら~皆やられちゃったよ~兄上~?」


 小柄な者が側頭部を抑えながら、どこか楽しそうにする。女性である。


「同朋たちよ……」


 大柄な者が低い声で悲しげに呟く。こちらは男性である。


「兄上は優しいね~あんな雑魚たちを同朋扱いするなんて……」


「妹よ、そんなことを言うものではない……」


「はいはい……」


 兄上と呼ばれた男性がキッと睨みをきかせる。妹と呼ばれた女性は首をすくめる。


「男女……?」


「兄妹か……」


 楽土と藤花が向き直る。


「さ~て、どうしますか?」


 女性が尋ねる。


「やることは一つだ……」


「そうだね……」


 男性の言葉に女性が頷く。


「……!」


「……来る」


 楽土と藤花が身構える。


「はっ!」


「!」


 女性がその場から姿を消したかと思うと、一瞬で藤花たちの背後に回り、手裏剣を技師や馬に向かって投げ込む。鋭い投擲だったが、藤花がそれを爪でなんとか弾く。


「! へえ、良い反応だ……ちょっと遅れたようだけど」


「虚を突かれたよ……まさかそっちを狙ってくるとは……」


「理にかなっているでしょ?」


「?」


「案外察しが悪いね~馬を仕留めれば、逃走手段が無くなる……技師を仕留めれば、修理することが出来なくなる……違う?」


 女性が小首を傾げる。


「なるほど、全部始末してしまえということね……」


「そういうこと♪」


「それは上からの指示?」


「いいえ、この場での判断」


「へえ、結構優秀だね……」


「上から目線が気に食わないね!」


 女性が声を上げ、再び技師や馬を狙う。藤花がそれを防ごうとする。


「むっ!」


「くっ!」


 飛びかかってきた女性の苦無での攻撃を藤花は爪で防ぐ。


「へえ、綺麗な爪だね?」


「それはどうも……」


「でも……彩が足りないんじゃないの?」


「赤色を足そうかなと思っている……」


「余裕だね……!」


「くうっ!」


「ははっ、どうした、どうした⁉」


 女性からの立て続けの攻撃で藤花は防戦一方になる。


「くっ……早くて、力強い……!」


「さっき上からがどうとか言っていたけど、私らがその上の方なんだよ!」


 女性が声を上げる。


「頭目みたいなもんか」


「そういうこと!」


「技師さんや馬を守りながら……あれでは不利だ、藤花さん!」


「させん!」


「‼」


 男性が刀を振ってきたため、楽土は盾で防ぐ。


「ほう、よく防いだな……」


「ぐっ……」


 楽土が圧し負けそうになる。


「同朋たちの仇、取らせてもらおう……」


「はい、分かりました、というわけには参りません!」


「ふん……」


「ぐぐっ……」


「この盾は硬くて重いな……それを片腕で支えるとはさすがだ……」


「くっ……あなたの膂力も人間離れしていますよ」


「お褒めにあずかり光栄だ。厳しい鍛錬を積み重ねてきたからな……」


「くうっ……」


「ふん!」


「どおっ⁉」


 男性が楽土に体をぶつけてくる。楽土は戸惑う。男性が笑みを浮かべる。


「ふっ……」


「せ、接近してくるとは……」


「……こうすれば右腕を自由に振りかぶれまい?」


「ちいっ!」


「さらに……!」


「むうっ⁉」


 男性が左足で楽土の右足を踏みつける。左足のわらじの裏から仕込んでいた刃が飛び出して楽土の右足の甲を貫き、地面に突き刺さる。


「これで足も固定したぞ!」


「ぐうっ……」


「楽土さん……!」


 藤花が楽土に目をやる。


「よそ見をしている場合かい⁉」


「狙いをつけるためにね……」


「なにっ⁉」


「⁉」


「ごはっ⁉」


 藤花が背中を向けた状態のまま、肘鉄砲で楽土を撃った。その衝撃を利用し、楽土は頭突きを男性に食らわせる。男性は後方にのけぞる。女性が驚く。


「み、味方を撃っただと⁉」


「理にかなっているだろう?」


「ああん⁉」


「技師さんやお馬さんは替えがきかないが、残しておけば、どこかに離れて楽土さんの修理は出来る……それなら優先順位が低くなるのは楽土さんだ……」


「イ、イカレてんじゃないの⁉」


「動けているから正常だよ……」


「右腕が振りかぶれれば……!」


「ごほっ⁉」


 楽土の放った右拳が男性の胸を貫く。女性が愕然とする。


「あ、兄上⁉」


「よそ見をしている場合?」


「はっ⁉」


 藤花が爪を振るう。女性の首が掻き切られ、血が勢いよく噴き出す。


「おかげで爪がより綺麗になったよ、アンタの血でね……」


 藤花が血で染まる爪を見ながら呟く。

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