第52話 ひとつのドアから、何人ものひとが出ていくということ

 ――ねぇ、この世界はどうですか、なゆた?


 とあたしは尋ねました。

 なゆたは、


 ――みんな、教室を出たければ窓ではなくドアから出ればよかったのに。


 と答えました。


 ――生まれたての頃は、みんなそう思うんです。でも、一つのドアから何人も同時には出られないでしょう?


 救われようと、みな、窓から出ようとするのです。ですが、窓には鉄柵。ですから、ゆっくり死を待って、一つきりのあたしになり、ドアから出ていくのです。

 そこから、なゆたは何も答えませんでした。

 話が続かず、あたしも言葉を失いました。

 自分と会話をするのは難しいものです。

 だから皆、部屋を分けた、他人同士を話し相手に選ぶのでしょうね。

 そう、こうして全員が黙り、こっそりと部屋を出ていけば、なにもかもうまくいきそうです。

 そういう風にも思えましたが、ま、無理ですかね。しょうがない、しょうがない。

 怒ってごめんね、パパ。

 あたしもホントは、生きるとか死ぬとか、別になにがなんだって、どーでもいいんです。

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