第44話 遠足のしおり
彼にどうしたのかなんて、わかるわけがありません。
自分は実際にパンが見ている夢にしかすぎないなんて、それこそ夢にも思っていませんし、ある程度菌が繁殖し、パンが焼かれるのと同時に消えてしまう存在だということなど、知る由もないのです。
パンは夢を(色んな羊飼いa、b、cを)山ほど飼い、それがときどき一つにまとまろうとしたり、また別れて好き勝手やるのです。
互いに同じ自分でありながら、他人めいていて、どうしようもない居心地の悪さを感じるでしょう。
基礎となる〈羊飼いa〉を守るために始められたその増殖は、ある日突然どれが基礎であるか、わからなくなり、どうでもよくなってしまうのです。
娼婦の膝で泣きながら「世界を変えたい」と叫ぶのは、世の中にあふれた景色です。
この羊飼いのごとく、めいめい(あるいはメェメェと)理想はあるのでしょう。
ですが、彼が(いえ、人はみな?)本当に達成したいのは、せいぜい「好きな女の子に賢いと思われたい」という程度のことなのです。
うまくいけば「えらーい」くらいは言ってもらえるかもしれませんが、女の子たちは必要に応じ、いえ、不必要でも「すごーい」くらいは言いますし、内心すごかろうとすごくなかろうと、どうでもいいと思っています。
人はときに、自尊心に縛られるあまり大局を見失いがちなのです。
何か虚構の、それも都合よく格好いい(あるいは、都合よく恰好悪い)自分を、〈私〉本体の解体により、作り出してしまうのです。
ときに、使い捨ての自分さえ、作ってしまいます。
無駄遣いを防ぐためにも、遠足のしおりを出してください。
一つ一つ確認し、正しく〈私〉の解体をしましょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます