第43話 国民全員が強い意識を持ってパン食にする覚悟が必要だ

 パン屋さんでは、とんでもない分量のパンが寝かされています。

 一つ一つが繭のようなものであり、そのパンたちはそれぞれ夢を見ています。

 あるパンは〈羊飼いa〉の夢を見て、あるパンは、青いドレスを纏った娼婦の夢を見ます。二人が逢瀬を交わすこともあります。

 娼婦の膝で、〈羊飼いa〉が世界の在り方を嘆き、泣きはらすのです。

〈羊飼いa〉は虚ろに「世界をよくするためには、」と訴えます。

 娼婦は、「急にどうしたの?」とクスクスと笑います。

〈羊飼いa〉は「僕は何を言っているんだ」とすぐに我にかえります。

「今何か、強烈な波動を感じたぞ」

「急にどうしたの?」

「パンだ。パンが僕の頭の中に入ってきて、暴れまわるんだ」

「急にどうしたの?」

「怖いよ、一瞬、僕が僕でなくなったみたいなんだ」

「急にどうしたの?」

「僕の中でパンの存在がどんどんふくらんで(イースト菌が暴れ)、僕自身のことが全部どうでもよくなっていって、そのうち、なにもわからなくなりそうで……怖い」

「急にどうしたの?」

「パンの耳は好きじゃない人も多いとは思うが、それはパンの輪郭だから、不用意に外してはいけない。ましてや耳たぶを噛みちぎるなんてもってのほか……何を言ってるんだ、僕は? 一体、どうしちゃったんだろう?」

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