第4話 あたしがずっとあたしであるがゆえに、ややこしいのだ

「君は人生に失敗してここに来たのかもしれないけどさ、そう落ち込むことはない。君が君であることすら不確かで、君が蝶なら今までの失敗は蝶消しだもの、ふふ」

 教師としてはあるまじき態度ではありますが、不思議と頷けるところもありました。

 つまるところ、『あたしがずっとあたしであるがゆえに、ややこしいのだ』ということでしょう。

 教師は続けます。

「だけどね、夢から醒めるまでは、君が頑張らなきゃ」

 果たして「全部が夢だったのさ」なんて救済はあるのでしょうか?

 それは相応の努力なしの、都合のいい、降って湧いた救済。

 救いとはそうあるべきだと、あたしは考えています。

「君が問題を起こすと親御さんが心配するよ。わかる?」 

 わかりません。

 うちのパパはあたしより分別がないもので。

 頭のてっぺんがジクジクと痒くなってきました。

 疼くような痛みです。

 パパのことを思い出すと必ずこうなるのです。

 娘のあたしでも、次の瞬間忘れてしまうような顔です。整ってはいますし、美男ではあるのですが、とにかく全てが平均的なのです。

 パパは狂ったように、低いトーンで(かつ、同じ調子で)、


 青いものは拒んではいけない。


 と言うのです。

 それは呪詛でありながら、あたしが求めている、救済のヒントでもあるように思えました。

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