第四章 目的


 口に入る土を、唾とともに吐き出す。汗で体に張り付いた衣服。その着心地の悪さに、私は気分が悪くなる。

「やっと…」

 ここまで。シャベルを傍らに放り投げ、数刻前から掘っていた穴を見て、私は一人、力が抜けたようにその場で尻餅をついた。

 きょろきょろと三百六十度、周囲に視線を巡らせる。真夏の熱帯夜。時間帯は午前零時を過ぎた、この暗闇だ。誰もいるわけがない。


 早くしないと。

 そうだ、早くしないと。


 油断はできなかった。この後にやることは、まだまだ山程ある。穴を掘って終わりではない。この後にはそこに死体を埋める作業がある。彼らがここにやってくることは随分先の話だろうが、それでも急がなければ。まだまだ安心はできない。


 安心、か。


 それを感じるには遠くかけ離れたこの状況からこの先、安心できる日々がやってくるのだろうか。

 それとも…人はいつか死ぬ。最期の日を迎えるその時まで、今の心境のまま不安と緊張に苛まれることになるのだろうか。

 今はどう考えようが、この先の人生がどうなるかなんて分からない。しかし、自分が今やるべきことは分かる。それは目の前の不安を払拭すること。それに限る。

「よし」と一言。喝を入れるように大きく深呼吸し、更に力を入れて掘り進めた。

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