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次の日の夜。車を走らせて一時間程度。一昨日…いや、これまでに何度も足を運んでいる廃校に到着した。
午後八時。正門を開けて校庭に入ると、既に車が数台あることに気がついた。マサキの車だ。自分の車を真横につけるように徐行させ、停車させる。車から降りた後は、一人昇降口へとゆっくり進んでいく。
月はちょうど真上に位置している。満月。昨日の雨模様とは異なり、晴れやかな星空。月からの青い光が一面に照らされ、影ができる程の明るい夜である。
校舎へと進む脚は震えていた。
マサキは、全て知っている。それは間違いない。
それなら私は?どうして彼の言うとおり、ここに来てしまったのだろう。いくらでも逃げることもできたはずだ。それなのに、どうして。
——あんたは逃げられない。
耳元で、あの女の声が
もちろんいるわけがない。分かっているが、まるで、私の耳に刻み付けられたように。あの女の、執念が。怨念が。油汚れのようにまとわりつく。
——あたしはまだ、生きたかったのよ。
うるさい。
お前が私に、それを言う資格があるのか。否、ある訳がない。お前に、お前なんかに。
全身にじんわりと汗が滲む。行きたくない。でも、行かねばならない。
そう、あの理科室へ。
「どうも、スミエさん」
ランプの灯りで仄かに照らされている程度の、薄暗い空間の中。マサキ、ジュン…そして、カヨの三人は、私よりも先に到着していた。私が部屋に入るなり、一同鋭い視線を向けてくる。
入ってすぐの床は黒ずみ、未だ微かに臭いが充満している。一昨日の痕跡は、清掃しても早々消えることはないようだ。
「良かった、来てくれて」
私は室内に視線を這わせると、にこやかに微笑むマサキを睨んだ。
「一体、どういうことなのかしら」
「どういうこととは?」
机を人差し指で、とんとんと叩く。
「葬儀?そんなの、嘘ばっかり。昨夜ここに来た時と何にも変わりがないじゃないの」
誰も、何も話さない。構うことなく、私は続ける。
「それに、カヨちゃんもいるのね。葬儀なんていうから、部外者は入れないものかと思っていたのだけれど」
カヨはジーンズにパーカーという、ラフな格好をしていた。また、口にはマスクをしている。時折咳き込んでいることから、風邪でも引いたのだろうか。「すみません」と、こもった声で一言。
「カヨさんは特例です」マサキが言う。「というより、彼女には居てもらわないと困る。あなたを呼んだのは、彼女の話が発端なので」
「彼女の話?」
ここにこうして呼ばれたのは、カヨが原因なのか。私は彼女を改めて見る。彼女は目線を床に落として、膝の上に手を置いて押し黙っている。この子が。
「それじゃ、とにかくはじめましょう、ミナさんの葬儀…いや、彼女の死の真相解明のための話し合いを」
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