ただ

あおいそこの

just

ぼくはうまれたときから

おかあさんのおなかのなかにいるときから

きょうのきょうまでずっとみずのなかにいる

かんじもよめるようになったし

じぶんだけでりょうりもつくれる

まっちでひもつけられる

ぼくはおとなになってもこのみずからぬけだせたとはおもえない


みずにつつまれているなかうみにいったときにきづいた

じぶんのみずのかんかくが

「それ」

とそっくりだということ

ふかいほうに、いけばいくほど

りくからはなれればはなれるほど

さきがみとおせなくなること

そこがみえなくなること

どんどんひろくなっていくから


しゅのーけるをつけてさかなをみているときにきづいた

いきはつながっているはずなのに

いきぐるしいこと

すっているくうきがひつようとしているりょうよりもすくないから


なまえもしらないようなさかながおよいでいるのをみてきづいた

なまえをしっているさかないよくにたさかながいるのをみてきづいた

しっていることよりしらないことのほうが

だんぜんおおいこと

わざわざしろうともおもっていないこと

しりすぎてしまうことがこわいから


「もしも、ぼくがなにもしらなくてもすき?」

「ものしりだから、ともだちになるんじゃないよ」

「でも、ものしりだったら?」

「たよりにする」


「もしも、ぼくがこんなにもきみにたすけられているのにつらいとおもってしまっていても、すき?」

「きみがひっしにかえそうとおもっていること、かえしてくれているのをしっているからすきだよ」

「かえそうと、しなかったら?」

「じぶんがつらいときまで、きみをたすけようとはしない」


「もしも、このさきのじんせいがどうなるかわからなくてこわい、っていったらきらいになる?」

「ならないよ」

「こわがるぼくと、こわがっていないぼくと、どっちがすき?」

「きみがきみであるなら、すきだよ」


そのこはつづけていった


「とくべつなひとだけがこわいとおもうわけじゃないでしょ?」

「ひととちがわなくても、ぼくがすきなの?」

「きみはとくべつだから、っていうりゆうでひとをすきにはならないでしょ?そういうことだよ」

「そうだった、やさしくしてくれたからきみがすきなんだった」


このこはどんなみずにつつまれているんだろう

すんだみずか

にごったみずか


いろんなことをしったよ

きれいなことも

きたないことも

ぜんぶではないけれど、ちゃんとふたつあることをしった


だいたすうにもまれているときとか

どうして?をのみこまなきゃいけないときとか

ごぽぽ、っておとがきこえてくるようなこともあった

そうやっていやだな、とおもうばしょがかんぜんにぼくとおなじひとはいない

みずのなかにいることをじっかんすることもつよいからおこること

でもよわっちいからおこることでもある


それがわかっているぶんぼくは

「ただ」よわいひと

「ただ」つよいひと

じゃない


ぜんいんみずのなかでこきゅうをしている

なけないさかなのように

なけるはずのひとがつつまれているのはかくしたなみだなのかもしれない


ぼくは「ただ」のひと


【完】

あおいそこのでした。

From Sokono Aoi.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ただ あおいそこの @aoisokono13

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る