第22話 そういうことになりました(最終話)
ランス様が帰ってから部屋でふたりっきりで話をすることになった。
「ランス様、お手紙は読ませてもらいました。私は待ちますので、思っている事を全てゆっくり話してくださいませ」
「あぁ」
「もう、あぁはだめですわ。夜は長いです。ランス様にお付き合いいたします」
そう言ってランス様の手を握った。
ランス様は真っ赤な顔をしている。
なんであんなに濃く執拗な閨事をする人が手を握ったくらいでなんで赤くなっているんだ?
「べべ……すまなかった……その……あの……私は……」
私は黙って見つめている。
ランス様は汗が流れてきた。
ハンカチで汗を拭いてあげると余計に汗が吹き出した。
「その……ずっと……好きだった……上手く話せなかった……愛している。私にはベべだけだ」
ちょっと長文になってきた。
それから3時間くらいかけて辿々しいランス様の話を聞いた。
「ランス様、私からお願いがございます。毎日お話の時間を持ってくださいませ。閨事の時間を減らしてそちらを重視いたしましょう。それから私はゆっくり聞きますので必要な話はきちんとしてくださいませ。話し足りない時は書いてください。そうですわね、交換ノートをいたしましょう。ランス様が書いてくれたことに私が返事を書きます。でも1番は書くより話すことですわ。お願いは以上です。それが出来るならこのままランス様と共に生きていこうと思いますがいかがでしょうか? あと『あぁ』や『うん』は禁止です」
私の希望など大したことはない。
「わかった。頑張る。私はべべが好きだ。愛してる」
「ありがとうございます。私はこれからです。私に愛してると言わせるように頑張ってくださいませ」
上から言ってやった。
どたんばたん
扉の方で音がする。
どうやらみんなが聞いていたようだ。私は立ち上がり、扉を開けた。
義父母、義姉夫婦、ドロシー、メイド達、使用人達、みんなが集まっている。
なんだかおかしくて笑いが込み上げてきた。
「皆さん、ご心配をおかけしましたが、大丈夫ですわ。ランス様のお気持ちはよく分かりましたし、このまま結婚生活を続けていこうと思います」
「やった〜!!」
「よかった」
「ありがとう。べべちゃん、ありがとう」
みんな大喜びだ。
ふと、横を見るとランス様が号泣している。
まったくもう。
それから5年が過ぎた。
ランス様は相変わらず王太子殿下の側近、そして近衛騎士として忙しい毎日を過ごしている。
私もテオ様のドレス工房専属の刺繍士、そして刺繍作家として活動しながら、ブリーデン小公爵夫人としての仕事も頑張っている。
そうそう、テオ様はあの時、一緒に泊まり込んで、ドレスを作っていたお針子さんのひとりと結婚した。
お相手は平民であったのだけど、オリヴィアお義姉様の嫁ぎ先のゲイル公爵家の養女になり、無事結婚できた。
テオ様はギルベルト殿下が国王になられる時に大公になる予定だ。もちろんドレス工房でオーナーデザイナーとして手腕をふるい続ける。
私達には4歳と3歳の男の子と2歳の女の子がいる。
3人ともパパっ子でランス様は忙しい中、時間を作って子供たちと向き合ってくれている。
もちろん、私ともあれ以来ちゃんと毎日話す訓練をし、今ではなんとなく会話ができるようになった。
足りない時は交換ノートを書いてくれている。毎日足りないようでノートには色々とびっしり書かれている。
1ページにびっしり「愛してる」を連続で書かれた時はホラーか? と思った。
怖すぎたのでお義母様とお義姉様に見せて、3人で『気持ち悪い〜! 怖い〜!』と笑いながらお茶を飲んだ。
鬱陶しいくらい溺愛され、執着されてはいるが、浮気をする心配はないし、真面目だし、私の言うことはなんでも聞いてくれる。よく見るとイケメンに見えないこともない。
この前、マデレイネお姉様のところに遊びに行った時に「あんな執念深くて気持ち悪い男、私は絶対無理。男全般無理だけど、特にランス様は無理」と笑っていた。
自分達の関係を隠すためにランス様との婚約をカモフラージュに使ってごめんねと謝ってくれた。
マデレイネお姉様はアンジェラお義姉様(ん? 私の方がお義姉様かしら?)と幸せそうに微笑んでいた。
初めはこの結婚はダメかと思ったけど、案外ダメじゃなかった。
相変わらず閨事が濃いのだけはちょっと不満だけど、ランス様と結婚してよかったのかもしれない。
やりたい事は自由にやれるし、とっても愛されている。
もちろん私もランス様を愛しているわ。多分。
こんな結婚生活も悪くないわね。
【了】
皆様、これでベアトリーチェとランスロットの悩みも解決してお話も終了となりました。
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
消えた姉の婚約者と結婚しました。愛し愛されたかったけどどうやら無理みたいです 金峯蓮華 @lehua327
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