第13話 ランス様が帰ってくるそうです
「べべちゃん、足止めをしていた大岩が取り除かれたので、ランスが戻ってくるらしいわ」
えっ? 帰ってくるのか?
あれから私は毎日王宮に通い、テオ様と一緒にドレス制作に励んでいた。お針子さん達も加わり、王宮のテオ様のサロンはすっかり工房と化していた。
毎日が楽しすぎて忙しすぎて、ランス様の事をすっかり忘れていた。
そういえば私は結婚していたんだわ。
2ヶ月近く便りもなく、戻ってもこないから忘れちゃってもしかたないわよね。
「帰って来られたら、もう王宮でテオ様のお手伝いはできませんね」
私はちょっと悲しくなってきた。
「あらどうして? ランスが戻ってきても別にべべちゃんはべべちゃんの好きなことをすればいいわ。ただ……」
ただなんだろう? 義母は困った顔をしている。
「また、午後にならないと動けなくなると困るわね。ドレスは輿入れまでに仕上げる予定でしょう?」
「はい。まだ私がやらないといけない刺繍が沢山あって、ゆっくり寝ている暇はないんです」
王女様が輿入れしてくるまであと1ヶ月しかない。ドレスは3着。1着分の刺繍はは仕上がった。2着目はまだ途中。3着目は全然手付かずのままだ。
義母は眉根を寄せ何か考えているようだ。
「べべちゃん、ドレスが仕上がるまで王宮に泊まったらどうかしら? ランスの事はなんとかするわ。せっかく良い感じでドレスに取り掛かっているのに、ランスのせいで遅れを出すわけにはいかないわ」
「泊まる? そんなことができるのですか?」
「えぇ、王宮には宿泊者用の部屋がいくつもあるの。王妃様に言ってみるわ。今日は王宮に一緒に行きましょう」
義母の提案で今日からドレスが仕上がるまで私は王宮に泊まることになった。
ランス様には『王妃様に頼まれた仕事があるのでしばらく家をあけます』と短い手紙をデスクの上に置いておいた。
「まるで家出みたいね」
義母は楽しそうにクスクス笑う。
王妃様にその旨を話すと、大歓迎してくれ、プライベートエリアの客室を用意してくれた。もちろんドロシーも一緒だ。お針子さん達も何人か泊まり込む事になった。
「べべちゃんが泊まり込んでくれるなんて心強いな。お針子さん達も泊まり込んでくれることになったし、楽しくて仕方ないよ」
テオ様はうれしそうだ。
「私も嬉しいわ。べべちゃん、ディナーは一緒に食べましょうね」
王妃様も喜んでくれている。
私は子供の頃から刺繍が好きで毎日刺していたが、王妃様のおかげで私の刺繍が認められ、注文がくるようになり、今回はドレスの刺繍を、それも最初のデザインの段階から参加させてもらえている。義母と王妃様が姉妹だというご縁で繋がったのだが、まさか結婚してから好きな刺繍が思う存分できるなんて思いもしなかった。義母には感謝しかない。
「お嬢様、なんだか楽しいですね。王宮の使用人は意地悪かと勝手に思っていたのですが、皆親切で良い人ばかりですわ。公爵家のご飯も美味しいけど、やっぱり王宮は格段に美味しいですね」
食いしん坊のドロシーは王宮のご飯にロックオンされたようだ。
王宮は楽しすぎて、ここでもまたランス様のことをすっかり忘れていた。
*テオドール殿下はギルベルト殿下の弟でベアトリーチェより3歳年下です。小さい頃からドレス作りに興味があり、アカデミーに入る前に他国に留学し、ドレス作りを学んできました。将来の夢はドレス工房をつくてオーナーデザイナーとして活躍する事です。一応王位継承権はあるのですが要らんそうです。
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