第5話 大好きなお義姉様
多分朝方までがっつりいたされようで、目が覚めたら昼? 昼間だった。もちろん部屋には誰もいない。
ランス様はもう仕事に出かけたのだろう。
普通なら結婚したら10日~1ヶ月くらいは休みがあるのだが、王太子殿下ももうすぐ隣国の王女と結婚するそうで王太子妃を迎える準備やらなんやらで忙しいらしい。
昨日の夜会で王太子殿下が私にそう言って謝っていた。
王太子殿下が隣国の王女と結婚する話はアカデミーでも噂になっていた。今までの婚約者候補たちは相手を見つけるのが大変みたいだなぁとみんなで話していたもん。
あの頃は『いくらでも譲るわ~』と言っていたがもう結婚してしまった。
白い結婚も消えた。孕んでいるかもしれないし、譲れないな。
さて、起きるか。
私は起きあがろうとしたが、上手く動けない。
あらま、困った。
ふと見ると枕元にベルが置いてある。これで呼べってか?
私はベルを思いっきり鳴らした。
コンコン
私の部屋側の扉からノックが聞こえる。
「お嬢様、お呼びですか?」
ドロシーの声だ。
「呼んだ~!」
ドロシーは扉を開け、ニヤニヤしながら部屋に入ってきた。
「起こして! 起きられないのよ」
私がそう言うとドロシーは私の背中に手を入れてぐっと身体を起こした。
「まぁまぁ、何が白い結婚ですか、よくもまぁ、こんなになるまで頑張ったもんですね。お嬢様、頑張れと申しましたがここまで頑張れとは申しておりませんよ」
ドロシーは呆れた顔をして苦笑している。
「私は何も頑張ってないわよ。ランス様が……」
「おぉ、ランスロット様からランス様呼びですか。格上げですね」
「からかわないでよ。『ランス』と言ったから、呼べってことかと思って呼んだら、何も言わないからランスになったのよ」
「あら、閨でもあの調子ですか? 愛の言葉を囁くとかは?」
「無いわよ。無い無い。何も無い」
「まぁ、味気ない閨事でございますね」
ドロシーは私を立ち上がらせ、隣の自室に戻るために肩を貸してくれた。
足がガクガクして力が入らない。股関節を酷使してしまったようだ。
「若旦那様が一応、清めておいたが、湯浴みをさせてやってくれとおっしゃってましたよ」
えっ? ドロシーには普通に話したのか?
「ドロシー、ランス様と話したの?」
「ええ、仕事に向かわれる際にお見送りいたしました。その際に昨夜は無理をさせてしまったから、労ってやってほしいと言われましたよ。普通に話していてびっくりしました。これで無口なのはお嬢様のみということになりましたね」
ドロシーはふふふと笑う。
その日は一日中ゴロゴロしていた。お義父様とお義母様が心配して様子を見に来てくれたが『あの、馬鹿加減を知らんのか!』と怒っていた。
まぁ、ただ跡継ぎを作るだけの妻に加減などしないだろう。
まぁ、暴力的ではなく、優しくはしてくれた。
ただ、回数と時間が半端なかったみたいだ。閨教育の時に聞いていた話とは随分違った。
そんなに急いで何がなんでも跡継ぎがいるんだろうか。
私が1回で孕めば、もうしなくてもいいということなのだろう。
夕方にはなんとか歩けるようになったので、サロンに降りていく。
「べべちゃん、身体はもう大丈夫なの?」
お義母様が心配してくれている。
私は子どもの頃から家でべべと呼ばれていた。お義母様やお義父様にも子どもの頃からべべちゃんと呼ばれていたので、嫁入りしてからもべべちゃんだ。
「ご心配をおかけしました。もう大丈夫です」
「べべ~、あの馬鹿がごめんね。仕事から戻ったら締め上げてやる」
「オリヴィアお義姉様~!」
大好きなオリヴィアお義姉様がいた。お義姉様はランス様のいちばん上のお姉様で、私の大好きなお義姉様なのだ。歳が離れているせいもあってか、子どもの頃から実の妹のように可愛がってもらっていた。
「結婚式も夜会もあんまり話せなかったから、来ちゃったのよ。なのにべべはあの馬鹿のせいでダウンしてるし、泊まっちゃおうかと思ったわ」
「あら、泊まればいいじゃない」
「そうだ。泊まればいい」
「オリヴィアお義姉様、泊まってくださいませ~。夜中までお話しましょう」
私は身体がキシキシ痛むのも忘れて、お義姉様の腕に抱きついた。
「じゃあ、泊まっちゃおかな。でもあいつ嫌な顔するんじゃない? 私のこと嫌いだし」
お義姉様の言葉にお義母様が笑う。
「嫌いじゃないのよ。やっかんでるの」
嫌い? やっかんでる?
あいつとは多分、ランス様の事だよね。
ランス様はお義姉様と仲良くないのかな? そういえば子どもの頃からあまり一緒にいないような気がする。お義姉様にはいっぱい遊んでもらったけど、ランス様と遊んだ記憶は全くない。
小さい頃ブリーデン公爵家に遊びに来ると、ランスロット様はいつもいなくて、私はオリヴィアお義姉様に遊んでもらい、姉はオリヴィアお義姉様の妹で、姉と一緒に消えたアンジェラお義姉様といつも一緒にいたような気がする。あの頃からふたりは愛を育んでいたのかな?
「ただいま帰りました」
ランスロット様が帰ってきた。
「姉上、来ていたのですか」
「来ちゃ悪い?」
「いえ。着替えてきます」
そう言って部屋に行く前に、私を見て「うん」と頷いた。
なんだそれ?
「今の何? あれ何? 新婚ほやほやの愛する妻にあの態度は何だ! 許せん。あんなやつ成敗してやる!!」
オリヴィアお義姉様は烈火の如く怒っている。
あんなのいつもなのに。
「いつもあんな感じです。昨日の結婚式の時も夜会の時も『うん』とか『あぁ』でしたよ」
告げ口してやった。
「えっ? この世のものとは思えないくらい美しかったウエディングドレス姿のべべを見て綺麗だとか女神だとか無し?」
「はい。『うん』だけです。文句を言ったら『良い』と仰いました」
それを聞いて、3人とも絶句している。
「殺す! 殺してやる!」
オリヴィアお義姉様はエキサイトしてきたようだ。
「べべちゃん、本当なの?」
「はい。本当です」
「駄目な子だわね」
お義母様は大きなため息をついた。
あらあら、ブリーデン家のに皆さん、長年のお付き合いなのにランス様の私に対する態度知らなかったのね。
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