異世界の君達へ
ザイン
第1話 日常
「おはよう!タケル!!」
家を出ると、いつもこの女が俺の家の前に立っている。
「……………」
俺は意図してその女の横を通り過ぎる。
「!?…………無視するなーーー」
女が回し蹴りをくらわそうとするのは想定済み。だから俺は即座にしゃがむ。
「!?」
「毎朝毎朝。よく飽きないよなお前…………」
「私の日課だからな!それより挨拶くらい返せタケル!」
「ハイハイ。おはようございます」
「〜〜〜。ハイは一回でいい!!」
「わかったから、朝から大声で怒るなメイ」
女の名前は剱 暝(ツルギメイ)。メイとは家が隣で小さい頃からずっと一緒にいる。……………つまり幼馴染みって奴だ。
こいつは毎日有り余る元気を大声と俺への怒りで発散する。
それだけでもめんどくさいのにこいつは…………強い。空手や合気道といった武術に精通し、特に剣道は全国大会に出場し常にベスト8入りする。マジもんの強者だ
そんな強者が俺にやたらお節介をやきたがるからたちが悪い。
俺は渋々メイに付き合わざる追えない日々を過ごしている。
「タケル。今日の数学の課題はやったのか?」
「…………あっ」
「あっ、ってお前!前回も忘れて安藤に怒られてたじゃないか!?」
「…………別にいいだろ?本番しっかりやれてれば」
「何故あんな授業態度で全国模試20位圏内を維持出来るのかが、わからない」
「お前とは頭の出来が違うんだよ〜」
「なんだと!?タケル…………お前!!」
「ヤベ。……………」
「待て〜〜〜タケル!!」
こんな下らないやり取りをしながら学校に通う。小さい頃からの日課だ。
「ナシロ!おはよう!!」
校門の前で1人の生徒が他の生徒の服装のチェックをしている。メイはそいつに声をかけた。
「おはよう。ツルギ、ヤマト…………今日も朝からボロボロだなヤマト」
「ほっとけ…………」
こいつは名城 奏(ナシロソウ)。俺のクラスの風紀委員で風紀委員長。1ミリ単位のミスも見逃さない生真面目な奴だ。
「うん?あれはシンカベ!おはよう」
「…………おはよう」
向かいから新日部 壱岐(シンカベイヅキ)が登校してくる。割りと運動神経がある奴だがどこか根暗な奴
「イヅキ。もっと堂々としてろ」
「あぁ」
ソウとイヅキも付き合いが古いらしく。気がつくと2人で行動していることが多い。
教室につくと、クラスの殆どの生徒が揃っていた。
「あっ!メイおはよう」
「マミ!昨日の『世界のベストショット30選』観たか?」
「観た!観た!!1位のあれ凄かったよね~」
メイに昨日のTVの話を振った女は遠谷 真美(トオヤマミ)。写真撮影が趣味でよくカメラ片手に撮影している。出来は上手いと思う。おっとりしているが体力馬鹿のメイに負けず劣らぬ運動神経を持つから驚きだ。
「タケルおはよう!」
席につくと1人、目を輝かせて近づいてきた。
「トウマ。・・・・今度はなんだ?」
「あれ?なんでわかったの?」
「お前が俺を頼る時は大抵アランに断られた時だからな」
「そうなんだよ~アランのやつ意地悪でさ~」
「なにが意地悪だ!お前が散々苦手分野だから手伝おうかと聞いたら必要ないって言ったんだろ!?」
どこで聞いてたと言いたくなるような距離から更に1人席に近づいてきた。
「アラン!?自分でやってみようと思ったんだよ~」
「嘘つけ!まだ1問も取り掛かってないじゃないか!?」
「う~~~だから助けてよ~~~」
屋良木 当真(やらきとうま)は自分の興味があることに対する能力が高いがそれ以外のことはポンコツな面白い男。そんなトウマにいつも振り回される更木 亜蘭(ざらきあらん)。あらゆることを率なくこなす優等生だ。
スパーン!!
「痛ってー」
綺麗な音と共に頭を叩かれるアラン。
「なにするんだ!カシン!!」
「優等生ぶるな!女たらし」
阿須 華信(あすかしん)。ガキ染みた言動が目立ちそのくせ理屈ぶり自分の正当性を主張するガキ。それに真っ向から付き合うアランはいつも滑稽に見える。
「あ~待ってよアラン!」
「お前は後だ!待てカシン!!」
「誰が待てって言われて待つかバ~カ!!」
カシンを追いかけに走るアラン。
「・・・・・ねっ!お願いタケル!!」
「・・・・・見せて見ろ」
「ありがとう~タケル!」
結局。俺がもう1人の問題児の面倒を見る嵌めになった。
「・・・・・・ここがこうなる」
「そっか!ありがとうタケル!!」
ようやくトウマの面倒を見終わると、厄介な3人組が話しかけてくる。
「今日も大変ですわね。タケルさん」
おっとりとした口調で話しかけてきたのは、楠井 蘭(くすいらん)。いつも笑顔で腹の底の見えない油断ならない女だ。
「まぁ。もう慣れたな」
「よく付き合うよな」
秤 由良(はかりゆら)。曲がったことが嫌いで誰であろうと噛みついてくる威勢の良い女
「付き合うまでせがまれるからしょーがねーよ」
「でも、満更でも無さそうだよね~タケル」
おちょくるように話しかけてきたのは成田 真帆(なりたまほ)。可愛らしいルックスと整ったスタイルでそこらの男を魅了する小悪魔のような女。クラスどころか学校中の男子が魅了されている・・・・・そうだ。
そんな一癖も二癖もある連中に囲まれた日々を俺は過ごしている。退屈しない日々、それが俺のとっての日常であった。
この日が来るまでは・・・・・。
それは冷たい風が赤い葉が宙に舞うようになったある日
俺は普段と変わらず騒がしいお隣さんと自宅に向かう途中であった。
「なあ、タケル用意してくれたか?」
メイは、少し恥ずかしそうに俺にねだる。
「用意?何を?」
「なっ!優勝したらご褒美にプレゼントをくれるといったのはタケルだろ!?」
「お前が全国出場するのは当たり前だろ?俺の言う優勝は全国だ」
「~~~ずるいぞ!タケルは優勝としか言ってない!!」
「なんだお前、全国大会に出場するだけで満足か?」
「!?そんなことはない!私は常にその道の頂きを目指している!!」
「そうだろ?道半ばでご褒美だなんてそんな低い志で鍛錬してないだろ?メイ様?」
「勿論だ!!」
「なら全国で優勝でもなんの問題もないはずだ」
「良いだろうならば、全国で優勝したら私の言う事を1つ叶えてもらうからな!」
「わかった。好きにしな」
「~~~!よし約束だからなタケル!!絶対に忘れるなよ!!!」
「はいはい」
上機嫌に前へ進むメイ。俺はその後ろ姿をガキかと失笑していた。
「痛っ!」
なにかが頭上に落ちてきた。目に前にはフレームが白いサングラス・・・・・
(珍しいフレームだな)
それは既存の物とは違うと感じさせる不思議な物だった。
頭上を見渡すが、当然持ち主など見つかるわけでもない
ふと視線を左に向けるとショウウインドウに映る自分の姿。珍しいサングラスをかけてみる。
(意外と悪くないかも)
サングラス姿の自分を見ていると
「タケル!なにしているんだ?」
上機嫌に前を歩いていた女が戻ってきた。
「どうだこれ?」
「これ?」
メイは不思議そうに俺の顔を覗く。
「いつものタケルじゃないか」
「はぁ?」
どうやらこの女には俺のこのグラサン姿の魅力がわからないらしい。
「・・・・・お前に聞いた俺が馬鹿だった」
「なっ!?なんでそうなる!?待てタケル!お~い!!」
この珍しいフレームのサングラスが俺の日常をぶち壊すとは、この時の俺は知る由が無かった。
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