第7話 運営

てか、目が見えないんだが…


ステータスとかは見えるが周りの景色が見えない。

もしかして、目もやられたのか?


左手で目の辺りを触ってみると、どうやら抉られているようだった。


あいつ…強すぎだろ…ほんとに…


くそ、街中じゃないからポータルに戻ることも出来ん…!



はぁ…

這ってでも帰るか…


まさか、部位欠損をするとはなぁ…








———————


「あーもう、全然ランク上がらないんですけど…」


始まりの街から出て歩いて3分ほどの位置に一人のプレイヤーがいた。


「いい依頼もないし、しばらくは金策しながらぼちぼちかn…え?」


彼女の目の前には、右手と左足を失い這っている男がいた。


「え?いや、え?なんかのイベント?あれ、でもプレイヤー…だよね?」


「…あ、プレイヤーの方ですか?すいません、部位欠損しちゃったんで街まで送ってってくれませんか…?お礼はしますので…」


「え、あ、うん、わかった」




シュンッ!


彼女がそう言って手を伸ばそうとすると、突然目の前から男のプレイヤーが消えた。


「は?え?いや、なに?…疲れてんのかな…一回ゲームやめよ…」






———————



「おいっ、これを見てくれ!」


今度はなんだ…



「ん?これ、社内配信か?」


社内配信はこの会社ビルで緊急事態が起きた時や、社員全体の会議の時だけに使われるものだ。


これを今使うと言うことはやっぱり…


『諸君、社長の未来だ、皆んなは今カプオン内で起こっていることを把握しているかい?そう、黄道十二星座の試練が攻略された件だ。あの試練を攻略したプレイヤーはチートを使った痕跡はなく、あれは管理AI《マザー》によるとゲーム内の挙動範囲内と言うことだ。だが、想定をはるかに超える力を所持することになったことは確かだ。だから、私はあのプレイヤーを…』


まさか…社長は…



『運営公認のプレイヤーにしようと思う!』



はぁ…前回の会議で決まった制度を使うのか…




『という訳で、彼にはこのゲームの顔となってもらう。これは決定事項だ。もう既に最高会議で議決されていることだ。あとは彼が承認してくれれば…まぁ、そうゆうことだから、各々業務に戻りたまえ!』


うちの社長はいつもこうだ…まぁ、仕事に戻りますか。





———————


「ふふふ、やはり彼は素晴らしい…」


先ほども見ていた彼の試練の攻略の様子を見ていた社長はそう呟く。


「社長、準備できました」

「あぁ、ありがとう、じゃあ早速呼んでくれ」




———————


プレイヤーの声がしたから、街まで連れて行ってもらおうかと思ったのに、またどこかに転移したようだ。


今度はどこだ?


「はじめまして、ゼラフ様、社長がお待ちです」


ん?なんで、俺のプレイヤーネームを知ってるんだ?


俺の名前を呼んだのは、スーツをピチッと着込んだ、秘書のような女性だった。



…?あれ、目が見えてる?なんでだ?


「部位欠損はポーションで治しておきました」


「あれ?俺声に出してた?」


「いえ、なんとなくですが、そうではないかと」


マジモンのエスパーやん…



「と言うか、社長って…」

「着いてきてもらえれば分かります」


秘書さん(仮)はそう言うと隣の部屋の扉をノックした。


「社長、ゼラフ様をお呼びしました」

「あぁ、入ってもらってくれ!」


「では、こちらへどうぞ」


秘書さんがノックした部屋に入ると、いかにも私が社長です!みたいな貫禄を醸し出した人がこちらを見ていた。


「ようこそ、ゼラフくん、急に呼んですまなかったね」

「え、いや、はぁ。と言うか、あの転移はあなたが…?」


他人を転移させることが出来る技術がもう既にあるのだろうか…


「あぁ、まぁそんなところだ。で、早速で悪いんだが…」


この人の性別…どっちなんだろう?容姿は…どっちともつかないと言うか、中性的?と言うんだったか。


「君、配信に興味はないかい?」

「へ?」


配信?何のことだ?


「次回のメンテナンスから、このゲーム内から配信できる機能を実装しようと思っていてね」

「は、はぁ」


それと、俺に何の関係が?あっ、前回の総合成績最上位者とか言うやつだったから…とか?


「君、黄道十二星座は、知っているか?」

「えぇ、まぁ」


「君が先程クリアした試練は黄道十二星座の試練でな…本来ならエンドコンテンツの類だったのだよ」

「え、あ、すいません…?」


「あぁ、いやいや、そうではなくてだな。先ずはおめでとう。素直に凄いと思うよ。確かにあの試練はカルマ値によって強さが変動する特殊なボスとは言え初見、しかもサービス開始して直ぐに攻略するとは本当に驚いたよ」


へぇ、そんなボスだったのか。


「そんな君に、このゲームの顔になって貰おうかと思ってね」

「ゲームの…顔?宣伝の為の配信…と言うことですか?」

「そうだ、それにそんなに厳しくない。基本的にゲームしてる時に配信してほしいと言うだけで、特に配信ノルマもないしな」

「あの、どうして俺なんですか?」


確かに、レアな発見をしたのかもしれないが、何も俺じゃなくてもいい筈だ。例えば企業に雇われている社員がやるとか…それが宣伝になるのかはわからんが。


「それは、君があの試練を突破したから…それに、前作で最もあの世界を楽しんでくれた人だから…かな、そんな君に配信して貰えば、私としても嬉しいしね、どうだい?一度だけでもやってみてくれないかい?」


こんなに期待してくれるなら、やってみたいとは思う、だけど、どんな風にやるんだ?機材とかもないし…


「やってくれるなら、サポートは惜しまない…のだが」

「それなら、やってみたい…です、お願いします」


そう言うことなら、やってみたい。配信によってこのゲームを知ってくれる人がもっと増えれば、俺も嬉しい。それに、楽しそうだしな。


「おぉ!やってくれるか、それなら早速手続きはしておくよ!あ、また後日、アルタードホールディングスから君宛に機材諸々が届くと思うから!」


急に饒舌になったな、いや、元からか?


「届けた物の中に書類を入れておくよ!そこに色々書いておくから、よろしく頼むよ!んじゃ!」


社長がそう言うと視界が暗転し、次の瞬間には、ポータル登録をした噴水の前にいた。


「ふぅ、色々ありすぎて疲れたな…一回ログアウトするか…」


こうして俺は、初めてのログインを終えたのだった。

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