第19話──本音と本心

 ……やはり、勘づいていたのか。9つの神の武器、そのことわりの外にある力。……いや、でも、私の力がそれだと気づいているかどうかはわからない。それに、この力のことは誰にも知られるわけにはいかない。私が、秘書官として王子の傍に居続けるために。


「私の力……それは……?」


「あんたはウソを吐くのが下手。正直に話しなさい。どんな力かはわからないけど、場合によっては王子を危険にさらすことになるかもしれないって──私に言われなくてもわかってるでしょ?」


 フリーダの顔半分に陰影が落ちる。窓の外を見ればいつの間にか夕陽は落ち、暗闇が姿を現し始めていた。


「ティナ。あんたは王子を巡って私の恋敵ではあるけど、残念ながら王子に必要だってことはわかってる。出会ってまだほんの少ししか経っていないけど、紋章なしでも戦える実力は本物だし、秘書官としても完璧。王子もあんたを頼りにしてるのは雰囲気でわかる。たとえ、王子が口にしなくてもね。だから、あんたの力がどんなものであろうと、私は口外したりしない。もう一度言うけど、正直に話しなさい」


 ……正直に話すとはどちらなのか。私の力についてなのか、それとも王子への想いなのか。または、その両方なのか。


 私は、暗闇が広がる窓の外からフリーダへと視線を戻した。いつもは子どものようにしか見えないその表情が、今は確かに私よりも大人に見える。


「……君は、何が知りたいんだ? 私の力を聞いてどうする? 王子への気持ちを聞いてどうする? それで、たとえば私が何かを隠していたとして、それを正直に君に話したところで、君にいったい何ができるんだ?」


 言い終わったあとに口を手で塞いだ。自分でも驚くほどに、今、口から出た言葉には怒気が含まれていた。これでは、私が力を隠し持っていると言っているようなもの。


「いいじゃない。やっと、本音が出た」


 意外なことに24歳の少女は微笑んでいた。怒りをぶつけられたことに腹を立てるでもなく、弱味を握ったと喜ぶわけでもなくなぜか微笑んでいた。その微笑みは、孤児になった私を育ててくれた神父さんやシスターのそれに似ていた。


「でも、力の内容については話す気がなさそうね。あんたもマリク王子も、そういう頑固なところは似てるのかもね」


「私は……特別な力など持っていない」


 あんな力に頼るわけにはいかない。あれが私の力だと認めてしまったら、私は私でいられなくなる。王子の傍にいられなくなる。


「私は、生まれつき紋章が使えない。神の祝福は私には授けられなかった」


 知っている。それは、生まれついての罰のようなもの。神から、この世界から拒絶された印。どんな紋章も体に宿すことができない私には、生まれついての印があるのだ。


「だから私は、王子に会うため、王子の傍に居られるように、この剣だけでここまで来た」


 女──と特別扱いされようとも、蔑まれようとも。


 しゃべりすぎた。もうフリーダの目を直視できない。このままじゃ、なんでもかんでも話してしまいそうになる。


「……わかったわ。もうこれ以上聞かない」


 静かな声だった。ゆっくりと顔を上げれば、フリーダは変わらず優しげな笑みを浮かべたまま。


「王宮の牢獄であんたを初めて間近で見たとき、正直のところビビった。あまりにも綺麗すぎて、あまりにも強すぎて。あんたが王子の秘書官と名乗ったとき、絶対、私のライバルになるって思った。あんたの気迫は生半可に生きてきた人間が出せるものじゃなかったから。……私に何ができるかって聞いたわね。何もできないなら、こんなこと聞かないわ。王子を守るための新しい力、教えてほしくない?」


「新しい力? そんなもの──」


「あるわけない? 確かにね、この世界にある力は全部が全部、神の力が源にある。だけどきっと、強い願いは神にも届く。どう、試してみる?」


 王子を守る力、私にも王子と同じ神の力が使えるなら、答えはもちろん「YES」だ。だけど、不安なのは。


「なんで、私にそんなことを教えてくれるんだ?」


「簡単よ。あんたみたいに正直になれなくて後悔している人を知っているから。でも、いい? 私が優しくするのはこの一回だけ。王子の心を射止めるのは私なんだから」


 急にまた子どもっぽくなる。悪戯な笑顔の後ろに少しの寂しさがあるような気がした。

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