1-5.魔王VSなんか追いかけてくる骸骨


 風を切り空飛ぶ絨毯じゅうたんの上に、私と賢者アンは立っていた。下には街が広がる。かなり高い場所を飛んでいる。


『魔王様ー!』


 私達を追いかけてくる、ガルーダに乗った骸骨。捕まったらめんどうな事になるのは間違いない。絶対に振り切ってやる。


 とはいえ、絨毯の出せるスピードは今の状態が限界だ。


 絨毯と骸骨はぎり追い付かれない程度の差を保ち続けていた。

 骸骨の後ろにも魔物の群れがいる。しかし、黒くてでかいコウモリのダークバットや体が燃えてるでかい羽虫のファイアフライといった、低級の魔物たちだ。


 彼らでは絶対にこの絨毯に追いつけない。

 問題は、やはり先頭の骸骨。


『その女は誰ですかー?なぜ逃げるのですかー!?』


 質問しかしないなあの骸骨。


「結局あいつはなに?」


 骸骨に対し当然の疑問を呟くアン。彼女の紫色の長髪が突風になびく姿は、中々絵になる。


『なんだろう…私の手下とか…?今の私記憶喪失だからわかんない…」


 嘘はついてない。いや嘘だけど、言い換えみたいなものだからセーフ。


「まずいね……ひとまず街中に降りたかったんだけど」


「このまままっすぐ逃げちゃダメなの?」


 アンは首を振った。


「私はダメ。まず私にかけられた賢者の契約を解かないと…この首都から出られない」


「めんどくさっ……さっき辞められるって言ってなかった?」


「マキナを逃した時点で辞める理由は作れたから。まあ、めんどくさいなら私を置いていってもいい」


アンは平然と言ってのける。


「……いくらめんどくさいからって、友達を置いていくわけないじゃん」


「え……」


 アンがなぜか慌てて顔をそらす。あれ、もしかしてそこまで仲良くなかった?


『何を勝手に盛り上がってらっしゃるんですかあ!?』


 しまった、骸骨のこと忘れてた。


『【黒炎ヘイズ】!!』


 キレ気味の骸骨が詠唱すると、黒い火球が迫ってくる。

 それに対してアンは冷静に手のひらをむけた。なんか顔赤くなってない?


「【水壁ウォクル】」


 火球は、アンの前に発生した水の壁にぶつかって蒸発する。確か【水壁】の詠唱は【水の地ヴォラクスより我等に加護を】……だった気がする。


 賢者ともなればそのくらいの魔法はで使えるらしい。

 なんて心強い。けれど、骸骨は全く諦めていない。


『魔王様、お戻りください。貴方は我々を率いる者。これ以上手荒なまねはしたくありません。』


「率いる?そんなこと、勝手に決めないでくれる?」


 受け答えしながらも、絨毯のスピードは決して落とさない。


『勝手、ではありません。それが魔王に定められた役割。現に貴方は私達が救出に向かうより早く、自力で人間の檻を脱出し、ここまで来た。違いますか?』


 役割とはなんとも高尚こうしょうなことを言う骸骨だ。知らんがな。


「いや、私は……」


 あれ?今なんて言った?


 ん?『私達が救出に向かうより早く』……


 


 ………………

『サイクロプス、救出に参りました』


『ゴーストアーマー。こんな貧弱な檻、すぐに粉々にしますから』

 ………………


 じゃあ、あの、サイクロプスとゴーストアーマーは一体?



「……ってあっつ!!あっつ!!!!」


 考えにふけっている間に、私の体は黒い炎に包まれていた。けど、魔王とやらになった影響か、炎はすぐに消えた。


 骸骨の攻撃はアンが防御してくれてたはずだけど……


 見ると、アンは無表情のまま、唇を噛んでいた。


「ごめん。これの存在を忘れてた」


 そう言う彼女の右手には、鎖のような紋章が浮かび上がっている。


「アン、その手のやつは?」


「契約の紋章。実際に見るのは、私も初めて」


「それが出ると、どうなるの?」


「……私は魔法が使えなくなる」


 あ、終わった……


『ヤッベ……いや、どうしますか魔王様?そのままでは落下死は免れませんよ?』


 くそっ、なんて白々しい骸骨だ……

 冗談じゃなく、今絨毯が無くなったら本当に死ぬ。


「う、上手く木に引っかかれば、なんとか……」


 声のトーンは変わらないものの、喋り方的にアンもまちがいなく動揺している。私の魔力で絨毯の形を維持し続けることはできるだろうけど、アンの身体が危ない。


 ここから入れる保険はありますか?


 ないですか、そうですか。


 それなら、骸骨に助けてもらうしか……


 いや……待てよ。 



 ……………………

『時を操りたいと思ったことはないか?』

 ……………………



 そうだ、【その手】があった!


「アン!私の腕を掴んで!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る