06.時空の間 最初の時間跳躍


………



「……ううん……」


 今日だけで何度気絶してんのと思いながら、また目を覚ました。


 さっきまで何してたっけ。フレアが去ってしまったあとの記憶が一切無い。いや、確か閉じ込められて、それから……?


『ああ、ようやく目覚めたか』


 折角記憶を辿っていたのに、どこからか聞こえてきた声に邪魔された。男とも女ともつかない中性的な声だ。


 そして、私はとても神秘的な場所にいた。


 具体的に言うと、白い床は水のように波打っていて、足を動かす度にぴちゃん、ちゃぽんという音と共に波紋が走る。


「おお…綺麗」


 光の粒が周囲を漂い、上からは青い半透明のベールが垂れ下がってひらひらと揺れている。

 

 とはいえ、横を見ても上を見ても、壁や天井はない。ただ、青い光だけがその他の空間を満たしている。


『さあ、歩いてくれ』


 色々言いたいことはあるけど、今は声に従うしかなさそうだった。


 横は見えない壁があるように進めないので、しばらく前へ歩く。


風が吹き抜けるような音と水の流れ落ちる音を聞きながら進むと、急に目の前が開けた。


 大量の本棚に囲まれた、円形の空間。その真ん中に、1つの椅子が置かれている。


木で出来た酷く簡素な造りの椅子。それは上から降り注ぐ青い光に照らされ、異様な雰囲気を漂わせていた。


『ようこそ。ここは、君の夢が叶う場所』


 円形の空間に足を踏み入れると、またも中性的な声が聞こえてきた。


「何それ。遊園地のキャッチコピー?」


『ノリの悪いヤツめ。まあいい。とにかく、君は選ばれた』


「いや、何に。それに、あなた誰なの」


 一応、クール系のキャラで返す。ただ、今とっさに出た「遊園地のキャッチコピー」という前世すぎるツッコミの意味を理解しているあたり、ただ者ではなさそうだ。


『ああ、我は……そうだな。時を司る者、とでも名乗っておこうか』


「はあ」


 はあである。「時を司る!?すっげえ!」なんてリアクションするのは前世の中学二年生くらいのものだ。いや、中学二年生でももっと捻ったものを考える。


『くそっ、調子が狂うな。もう良い、本題に入ろう。時を操りたいと思ったことはないか?』


「それは……あるよ」


 あるに決まってる。時間を巻き戻してやり直したい。時間を止めてのんびりしたい。全人類が一度は抱く願望と言っても、過言じゃない気がする。


『では、その望みを叶えてやろう』


 やったー。




 いや待て待て。あまりに話が出来すぎてる。


「おかしな話。そんなことをしても……あなたにメリットはない」


『メリット……?それはまた、奇妙な事を聞く。我にメリットがなくとも、君は時を操りたいだろう?』


「まあ……そうだけど……」


『決まりだな。そこの椅子に座ってくれ』


「あの、光ってる椅子に……?」


『他に椅子なんかないだろう』


 怪しい、怪しすぎる。記憶が曖昧だけど、ここは間違いなく師匠の塔ではない。


 フレアはこれを知っていたのだろうか。部屋の扉を閉めたのはフレアの仕業?でも、そうする理由はない。


 ……色々考えてめんどくさくなったので、普通に私は椅子に座った。


『では、始めるぞ』


 上から指している青い光が、私の全身を包み込み始めた。手術前みたいな嫌な緊張感がある。立ち上がろうとしても、なぜか体が動かない。


 間もなく、体の中に私とは異なる魔力が入り込んできた。


『時間魔法は大きく分けて3つの区分がある。時を飛ばす跳躍スキップ、時を戻す遡行リープ、そして時を止める停止ストップ。これから、その内1つを君に授ける。さあ、どれがいい』


「え、どれか1つだけ?」


『そうだ』


 何が時を操るだ。詐欺じゃないか!


「詐欺じゃないか!」


 口にも出してた。


『仕方ないだろう。今の君の器では、1つが限界だ。いや、[停止]もまだ使えないな。じゃあ2つか。ごめん』


 謝った。謝っちゃったよ時を司る者。


 しかし、体内に入ってきた魔力。今までに感じたことのない力。コレなら確かに、時を飛ばすことだってできそうだ。


「さあ選べ。時を飛ばすか、時を戻すか」


 飛ぶか戻すか。それなら、決まっている。これを使って10年後の世界に飛べば……そこには修行を全てすっ飛ばし、夢のスローライフを手に入れた状態の私がいる、という訳だ。


 間違いない。だって、これまでも上手くやってきた私が、これから先上手くやっていけない訳が、ない。


 やった!やった!スローライフだ~!!!


『さあ、魔力を練り上げろ。詠唱の時間だ』


「はい」


 浮かれ上がった心を抑えて、私は集中する。自然と頭の中に現れる詠唱文を、そのまま読み上げていく。


「【飛ぶ翼。泡沫うたかたの街。佳景かけい定まらず、また波の中に溶ける】」


 椅子の周りが波打ち、逆巻く水が椅子ごと私の体を包み込んだ。完全に水の中にいる。それなのに、全く苦しくない。かちかちと、針が動くような音が聞こえ始めた。


『イメージしろ。時を飛び越える自分を。その終着点を。時間とは波。常に形を変え、流れ続ける波だ』


 声に従って詠唱を続ける。時が波……それを飛び越える。だめだ、イメージがサーフィンみたいになる。


「【海は永遠ならず、時は永遠ならず。ゆえに、我ここにとどめる】」


 けど、上手くいったみたいだ。目の前に巨大な時計の文字盤が浮かび上がる。短針と長針が猛スピードで回転する。


 ……あとは、魔法の名前を宣言するだけ。


「【時間跳躍クロノスキップ】」


 その一言で、針が停止する。文字盤の長針は12を、短針は10を指していた。


『……成功したな。おめでとう』


 時を司る者がそう言うと、周りの景色が文字盤に吸い込まれるようにして、ぐにゃぐにゃに歪んでいく。


『その椅子から絶対に動くなよ。時の波が君を未来へと流してくれる』


 どうやら、本当に私は未来に飛べるようだ。時を司る者、とやらのお陰で。

 でも、やっぱり気になる。こんなこと聞くのは、いつもならめんどくさいけど……


「なんで、私は選ばれたの?こんな凄い力を、どうして……」


『いいか、ここまでは運命だ。だが、この先の全ては君に掛かっている。それだけは、忘れないでくれ……


 いや、答えになってない……


 そう返す間もなく、目の前の景色は完全に崩れ去った。針の音が大きくなっていく。


(まあ、いいか。目が覚めたら、私は……)


 憧れのスローライフに想いを馳せ、私はゆっくりと目を閉じた。


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次章、最初の跳躍です。だらだらとした序章ですみません。今後に繋がる伏線、要素を沢山詰め込んだもので……今後の話で「お?」と思ったら、0に戻ってくると良いと思います。


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