ギャル、王女と出会う。 part2

 「あー……、やっぱそうっすかねぇ……」

 驚きはなかった。

 真愛まな自身も、そうではないかと思っていたのだ。

 ただ、それをハッキリと言われてしまうのは少なからずショックではあった。

 異世界。

 マンガやゲームの中くらいでしか聞くことのない単語。クラスのオタクくんがそんな内容を扱った小説を読んでいたような気もする。

 なんにしても、創作の中でしか存在しない世界へと現実に真愛まなは来てしまった。


 「では、やはり彼女は……」


 「そう考えるのが打倒でしょうね……」


 言葉を交わして、アルメリアは従者が運んできた古ぼけた便箋サイズの紙へと視線を落とす。


 「シジョウマナ殿、貴女はこの予言書に記された勇者だとわたくしは思います」


 「…………、え? 今、なんて?」


 ――ユウシャ。


 そう言ったように聞こえた。

 ゆうしゃ、勇者。

 ゲームなどでよく聞く、あの勇者のことを言っているのだろうか。


 「あーしが勇者? まさか……、普通のJKですよ?」


 「世が大きく乱れし時、異空の果てより勇者が来訪せり。我が国……いいえ、この世界に古より伝わる伝説です」


 そんなはずはないと思う真愛まなに対して、アルメリアは至極真面目な顔つきだった。

 見れば、従者もセシリアすらも、その伝説とやらを本気で信じているようだった。


 「ハハ……えーと、マジ?」


 「戸惑うのも無理からぬことです。でも、現実として魔物が跋扈し、世は大きく乱れ始めています。そんな時に貴女は異世界からこの地にやってきました」


 魔物。

 確かに、あんなイノシシ人間がたくさん現れては、人々はまともに生活などできないだろう。


 「あーしに、あんなのと戦えと?」


 怖かった。

 騎士を助けた時は無我夢中で、他のことを考えている余裕などなかっただけで、実際に魔物と戦うとなると話は別だった。

 戦うための訓練も何も受けていない、ただの女子高生である真愛まなにそんなことできるはずがない。


 「まぁ、いきなり勇者だから世界を守るために戦え、と言われても難しいだろうな」


 助け舟を出したのは、以外にもセシリアだった。

 頭を深く垂れて、主君へと願い出る。


 「王女殿下。シジョウマナ殿は戦闘経験が一切ない素人。しばらくは私めが身を預かり、勇者として適性があるか見極めたいと思いますが」


 「そうですね。確かにその方がいいかもしれません。騎士隊長リーダーである貴女がついてくれるなら心強いですね」


 当事者である真愛まなを置いてきぼりにしながら話を進める二人。

 どうやら、このままだと隣の堅物そうなメイド騎士と四六時中一緒にいるハメになりそうだと、真愛まなは待ったをかける。


 「ちょっと待って! ありがたい申し出だけど、あーしはできれば元の世界へと帰りたいんだけど……」


 困っているのもわかる。

 決して助けたくないわけでもない。

 だが、全くの未知の世界で何ができるかわからない中、安請け合いもしたくはなかった。

 それに、新作のコスメの発売だって差し迫っている。

 なんとしても、それには間に合うように帰らなくてはいけなかった。


 「それはまぁ、帰る手段があるのならすぐにでも帰してやりたいがな……」


 「え!? ウソ、帰る手段ってコッチにはないの?」


 セシリアもアルメリアも、その問いに黙って首を振る。

 帰る手段はない、と伏せられた瞳が語っていた。


 「えぇ……、どうしよう……、あの光の球を探すしかないのかなぁ」


 真愛まなをこちらの世界へと連れ込んだ、あの球。あの光の球さえ見つけることが出来れば、元の世界へと帰還することも可能かもしれない。

 だが、目下のところ一切の手掛かりはない。

 つまりは絶望的な状況だった。


 「では、シジョウマナ殿。こうしてはいかがでしょう」


 青い顔でうなだれる真愛まなに、アルメリアが一つ提案をする。


 「その光の球をセシリアと一緒に探す、というのはどうでしょう。この国でいろいろ手掛かりを探して、見つければその時、元の世界へと帰る。それまでは勇者として、ここで過ごしてください」


 「戦えなくても、ですか?」


 「ええ。今、この国には希望が必要です。魔物が頻出して、民たちは不安を覚えています。ですから、その為の希望となっていただきたいのです」


 要はわかりやすい看板が必要なのだろう。

 伝説の勇者が世界を守るために立ち上がりました、と喧伝すればそれは確かに、不安を払拭する一番の希望になる。


 「わかりました。あーしにできることは精一杯やらせてもらいます」


 結局はそう答えるより他はなかった。

 帰る手段を見失い、頼れるツテも、行くアテもない今の真愛まなに、申し出を断ったところで待っているのは野垂れ死に。

 少々騙しているような気がして、良心が咎めるが綺麗ごとばかりも言ってはいられない。


 「そうですか! ありがとうございます」


 そう言って、顔を綻ばせるアルメリア。

 せめて、この笑顔にくらいは報いようと覚悟を決める真愛まなだった。



 「で? この後はどこへ行くの?」


 王女への謁見を済ませて、城をあとにした真愛まなとセシリア。

 今は、城下の大通りをセシリアの後についていく形で歩いている。


 「ん? さっきも言った通りにシジョウマナ、キミの魔法について詳しく調べる」


 その言葉に、真愛まなは一つ疑問を口にした。


 「ねぇ、なんでセシリーはあーしのこと、四条真愛しじょうまなってフルネームで呼ぶの?」


 「うん? どういうことだ? キミはシジョウマナと言う名なのだろう」


 「そうだけど、わざわざ名字まで言わなくてもいいよ。真愛まなとか、あだ名でマナぴでもあーしは気にしないよ」


 別になんて事のない会話。

 関係性を構築するための、簡単な一歩だったはずである。

 だが、セシリアの反応は意外なものだった。


 「キミは、王族なのか?」


 「はい? あーしが王族? んなわけないっしょ。別に生まれも育ちもフツーの家だよ。あ、でもパパが外国の人だから、そこだけはちょっと珍しいかも」


 「キミのいた世界では、普通の家柄の者でも名字を持つのだな……この世界では、名字は王族しか持たないのだ。だから、キミも王族なのだと……」


 世界が変われば、常識も変わっていく。

 小さな会話一つでも、『異世界』へと来たんだと改めて実感させられる真愛まなだった。


 「ふーん……、名字があるのが当たり前のあーしからすればちょっと不便そうだけどね、それだと。まぁ、それはいいとして、目的の場所はまだ着かないの?」


 城をあとにして、およそ一五分ほどは歩いただろうか。

 ちゃんと舗装されていない道を、ローファーで歩くのは少々しんどくなってきていた。

 

 「もう着いたよ」


 セシリアが立ち止まり、とある建物を指差す。

 古めかしい、金属の掘っ立て小屋といった様相のボロ小屋がそこには建っていた。

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