高速バス

8月、真っ昼間の高速バスに乗っていた時の話だ。外は声高に蝉が鳴いており、日差しが燦々と降り注いでいるが、高速バスの中はカーテンで薄暗く、冷房も寒いぐらい効いていて外とは対象的だった。アナウンスが終わった後、しんと静まり返った車内には否が応でも音は響く。


どうも同じ動作を繰り返しているのか同じ音と衣擦れがずっと聞こえてくる。私は目をふと開いて音がする斜め前の座席を見た。


おそらく中年であろう女性が座っていて、どうも自分のお腹だか足だかをさすってる動きをしている。 その後、ずっとその音は鳴り続けていた。


そうこうしてるうちに降りる停留所になり、

その女性の隣を通る時に何気に膝に目をやった。


女性の膝にはびっしりと細かい字で書かれた絵馬があり、女性はその絵馬を一心不乱にさすっていた。


私は何も見なかったことにして降りた。

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