佐倉詩音は今日も観測す

ハナビシトモエ

第1話 稲川咲の場合

 扇風機の開幕戦はまだだろうに部長の鷹鳶たかとびまひろは風に当たっている。


「いいのか部長さん、今は五月。夏になったら泣くぞ」


「いいの。私はクーラーのある絵画部に事務所を置くのだ。佐倉くんはダメだぞ」


 俺はこの市立太田高校で探偵部に入るために入学した。祖父はここなら俺の厄介な状態を好転させることが出来るという。昔のことなのでと適当なことを言っている節はあるが、伝統的にが集まるそうだ。


「観測まだ?」


「学校中にどれだけ事件があるか分かっているか。無数だ、処理出来ない」


「弱音を吐くな探偵君」


「部長も働け」


 部員たった二名。普通なら廃部扱いだ。それでもこれが部活動として認可されているのかというと。俺と部長であるまひろの能力が大きい。

 俺は人の不安や迷いが見える超能力者みたいなもので、まひろは持っている情報やひらめきを武器に生徒や先生に業者の悩みを解決する。


 俺はいつも通り、相談メールをチェックし始めた。相談やアポイントの返信だ。暇な時はかなり暇だが、真剣な相談メールはまひろに転送する。遊びメールも多く、分けるのは俺の仕事になる。


「ブラを外す時に彼氏からもらったイヤリングを落とした。職員室に届いている」


 駆け込んできた女子生徒は言った。

「下着を脱ぐ時に」

 そういって一瞬、女子生徒は僕を見た。


「気にせずにいいです。あいつ人間に興味ないんで」

 それはそれでひどい。


「脱ぐ時に彼氏に貰ったイヤリングを落として」

 俺の仕事はここまでだ。調整はまひろがする。まひろの仕事は学校でつけてはならないイヤリングをどう取り返すかの算段をする調整役だ。


「稲川咲さんだね」

「やっぱ情報力のまひろさんだけはあるね。どこに行ったか分かる?」

「職員室指導部、山梨先生の机の上だ」


 この推察は完璧ではない。かもしれないの域は出ない。しかしまひろは頭の中で計算をしたのだ。自白を狙う教師はそう多くない。ほとんどの職員は放送で呼ぶが今度から気をつけるようにと物は返してくれる。


 稲川の学年は午前中に体育をした。もう昼休みを挟んでいるのに誰も呼ばない。ここまで大事に取っておくのは山梨しかいない。


「三日待ってくれ」

 そういうとうちの部長は必ず三日後に落とし物をここに持ってくる。


「ありがとう。待っているから」


 これが探偵部の力だ。依頼者は学校の生徒と職員の全員。双方相対する事案が無い限り依頼は全て受ける。俺の察知能力と部長いやまひろの情報力の合わせ技でこの部が成り立っていることは誰も知らない。


 三日待てと言ったら、絶対に三日で答えを出す。


「おい佐倉詩音くん。まひろ様にカルピスを献上けんじょうせよ」

「いらないからお汁粉をやる。甘いから同じだ」


 本日の探偵部の営業は終了しました。またのご依頼お待ち申して上げております。

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